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第20話
海の家から少し離れていたが、スイカ割りを楽しむには十分なスペースをユウリと二人で確保した。
スタートラインを決め、海に向かう進路上にビニールシートを敷いて、その真ん中にスイカを置いた。
「ようやく出番だぞ」
俺は真ん丸いスイカの表面を撫でながら、頑張ってユウリに割られるんだぞ、と内心で呟く。
苗を植えてから収穫までの苦労が甦る。実がついてからは毎日世話をしながら、話し掛けその成長を見守っていたから、これでお別れかと思うと少し寂しくなった。
「もしかして、暁が育ててたスイカ?」
隣にしゃがみこんだユウリが尋ねる。
「うん」
「割っちゃっていいの?」
俺のユウリへの愛情が詰まったスイカ。
実をつけた時から、割られる運命だ。
俺の、この気持ちもスイカと一緒だ。
自覚した時から、いつかは葬りさらなければならないと覚悟していた。
「もちろん❗ばーんと弾けさせてやって」
明るく俺は言い切った。
「おうっ、ばーんって割ってやるぞ」
そう元気良く答えたのは隣のユウリではなかった。
声の主を振り返った俺は、唖然とした。
お揃いの真っ赤なビキニを身に付けた女性二人に視線が釘付けになる。
男であるユウリが好きな俺だから、自分とは違う女性の体の造形に興味はあるが、ここまでガン見する事もない。
そんな俺が彼女たちに目を奪われていた。但し、何でそんな格好なの?とゆう驚愕のせいだ。
海なんだがらビキニは有だ。しかし彼女たちの頭部は、馬と、世界的ポップスターのマスクで覆われている。そのうえ、馬マスクの人物は使い込まれて傷だらけの竹刀を担いでいるのが恐ろしい。
「待たせたな、暁、ユウリ」
馬が愛理さんの声で話しかけてくる。
「雅美、こっちのイケメンが暁で、隣の王子さまがユウリだ。こいつは、あたしのダチで雅美だよろしくな」
そう言って愛理さんが紹介すると、マイコーが「よろしくね」と手をひらひらさせた。
「準備も出来てるようだし、始めるぞ」
そう言って竹刀を振り回す愛理さんの様子から、彼女らがこのスイカ割りに参戦するつもりだと俺は悟った。
『マジかー』
心の中で叫んだが、男子二人だけの寂しいイベントを盛り上げようと愛理さんが気を使ってくれた事は素直に嬉しかった。
それに、割る方の準備を怠った俺が招いた事だ。ここは、一緒に楽しむ事にしようと俺は気持ちを切り替えた。
「順番決めましょうか。ジャンケンするぞ、ユウリ」
立ち上がった俺は、未だ唖然とした様子のユウリに手を差し出す。俺の手を掴んで立ち上がったユウリが、他の二人に聞こえないように耳打ちする。
「しゃべる馬とポップスターとスイカ割りって…」
ユウリは普段人見知りとかしない方だけど、流石に呆れちゃっただろうか?
心配する俺に「何だかワクワクしちゃうね」とユウリ笑顔をくれたのだった。
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