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第21話

とゆうわけで、今に至る。 「こら、雅美そのマスクじゃ前見えてるだろ、目隠ししろ」 「えー、愛理のマスクにも目の穴あったじゃん」 「こっちはな、穴はあっても鼻がデカくて下見えないんだよ」 そう言いながら愛理さんは、マイコーのマスクの上から、雅美さんにタオルで目隠しする。 「よし、これで見えないな。んじゃ、ぐるぐるな」 愛理さんに体を3回転させられ、方向感覚もなくした雅美さんがふらつきながら一歩踏み出す。 「暁、ユウリ誘導して」 要求されて俺は仕方無く声を出した。 「そのまま真っ直ぐです。ちょい右、右」 ユウリ以外に俺のスイカを割らせてたまるか。そう思った俺があさっての方向へと誘導するのに、純粋にスイカ割りを楽しむユウリが正しい方向を教える。 「雅美さん、左だよ」 「全然違うぞ雅美ー、反対だ。後ろ後ろ」 何故か愛理さんも、邪魔しに掛かる。三人それぞれが違う方向を示すので、雅美さんは迷って動けない。 「お前ら、ちゃんと誘導しろよ」 「してるじゃん。雅美が信用してるやつのいうこと聞けばいいだろ」 ニヤニヤ顔で言い返した愛理さんの言葉に心が決まったのか、雅美さんは木刀を降り下ろした。 ※ ※ ※ 「食べないの?甘くて美味しいよ」 シャリシャリっとスイカかじりながら、ユウリがたずねる。 「うん」 美味しそうにスイカを食べるユウリから、俺は目の前のスイカに視線を落とす。 切り分けられ銀色のお盆に載せられたスイカは、どれも形が不揃いで中にはひしゃげたものもあった。 結局、ユウリがスイカを割ることはなかった。 友人の愛理さんの声にではなく、ユウリの誘導に従って降り下ろされた雅美さんの木刀はスイカに命中した。 当たりどころが良かったのか、使い込まれた木刀の威力なのか解らないが、割れると言うより叩き潰された感じで、弾け飛んだ欠片や赤い汁が散乱してちょっとグロい。 俺の頭じゃなくて良かった等としょーも無いことを考えたのは、今回もユウリにスイカ割り体験をさせられなかったショックからかもしれない。 「ごめんな」 「何?どうかしたの暁」 心の中で謝ったつもりが、声に出していたようだ。 「スイカ割り楽しみにしてたのに、出来なかったから」 二人でやっていたらユウリに割らせる事が出来たはずだ。もちろん愛理さんや雅美さんを責めるつもりはない、俺が準備を怠っていなければと思ってしまうのだ。 「確かに先に割られちゃって、僕が割ることは出来なかったけど。応援したり邪魔したり、それもスイカ割りの楽しみなんでしょ」 「まーそうなんだけど」 「皆で騒いで笑って、僕は楽しかったよ」 そう言って俺を励まそうとするユウリの優しさが嬉しい。楽しかったと思ってくれているのなら、それで十分だ。そう思い直そうとしたのに、続くユウリの言葉に俺はショックを受ける。 「それにね。僕、スイカ割りたくなかったし」 嘘だろ…俺ってば勝手な思い込みで、ユウリに無理強いしてたのか? 困惑する俺に、珍しく強い口調でユウリが告げる。 「だって、あのスイカ暁がずっと大切に育ててきたんだよ。僕に割れるわけないじゃん」 「俺の育てたスイカだから…、割るのが嫌だった?」 頷いたユウリが、スイカを一切れ摘まむ。 「でも、割らないと食べられないしなーって思ってたから、雅美さんが割ってくれたときは、ホッとしたんだよ」 そう言って俺にスイカを差し出す。 受け取ったそれを一口かじると、口の中に甘味が広がる。 素人が育てたものだ、そこまで甘くないはずだが、俺は今まで食べたスイカのなかで一番美味しいと思った。 俺の気持ちが詰まった、割られる運命だったスイカを、割りたくなかったとユウリが言ってくれた。 言葉に出来ない想いに胸を詰まらせそうになりながら、黙々とスイカを食べ続けた俺は、保養所までの帰り道をたぷたぷのお腹で自転車を漕ぐはめになったのだ。

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