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ユウリ視点 8

「なんか凄いことになってるよー」 暁の声に僕もダイニングに向かった。 八人掛けのダイニングテーブルには生花とキャンドルが飾られ、オードブルからメインにいたるディナーのが準備が整っていた。 「ユウリ何か聞いてる?」 「いや、僕も知らないけど」 暁に答えながら僕はアイスペールに入ったシャンパンに、カードが添えられている事に気付いた。 手に取って英語で記されたメッセージを読み下す。 「マークが用意したみたい。バーベキューの準備もしてるって書いてるけど」 「そうなんだ。俺、バルコニー見てくる」 そう言ってバルコニーに向かう暁の背中を眺めながら、僕は手にしたカードを握りつぶした。 それでも、そこに書かれた一文によって沸き起こった不安が潰れることはなかった。 ※ ※ ※ 「そっち引っくり返した方が良くない?」 暁に促され焼網の上の肉をトングで摘まみ裏返す。パチパチ燃える木炭に肉汁が滴り、じゅーっという音と焼けた肉の匂いが食欲をそそる。 暁とシャンパンで乾杯し、オードブルを摘まみながら肉が焼けるのを待つ。昼間の海も楽しかったが、こうして二人きりでいられるのが嬉しい。 バルコニーの床の上には、半円を描いてキャンドルグラスが並べられていた。その全てに火が入れられ、ゆらゆら揺れる灯りが床の上を踊っている。 マークらしくない事をするなと思うが、らしいのか?とも思ってしまう。シャワーを浴びるために部屋に戻ると、そこにも花と共にアロマキャンドルがセットされていた。 意図を持った過剰演出…、そこにマークのシニカルさが見え隠れするから。 「はぁー」 思わずため息をついてしまう。暁と過ごす大切な時間に他の事に気を取られるのは本意ではなかったが、考えずにはいられなかった。 近い将来、僕が家業を継ぐ時には、マークは秘書として右腕となるはずだ。その時には仕事面やプライベートな部分までも身近でフォローしてくれるだろう。 しかし今は家庭教師というスタンスだから、僕の個人的な動向には目を光らせはしても、協力等あり得ないと思っていた。 だからこの小旅行をあっさり許されたのが信じられなかったし、宿泊先の手配や移動の段取りをマークがしてくれた時には、どういう風の吹き回しだ、と思ったんだ。 「ユウリ、大丈夫?」 「えっ、何が」 「ため息ついて静かになっちゃったから、疲れちゃったのかと思って」 僕の顔を覗き込む暁の心配そうな表情に胸を突かれる。暁に不安な思いをさせたくない、そう思うのに暁が僕の事を心配してくれるのが嬉しい。 他の誰でもない僕の事を考え見せてくれる表情は、例え怒った顔でも可愛い。 暁の表情、言葉、匂いさえも僕一人のものにしたい、誰にも渡したくない。 暁を手に入れ囲い込むための準備は始まったばかりで、それを実行するのは困難だと理解している。 ずっと暁の側にいて、誰かに付け入られる隙を与えたくない。でも、どうしても離れなければいけない時が来る。 刻一刻と、その日は迫っている… 「そんな事ないよ。ただ、この夜が終わらなければいいのにって、思ってたんだ」 暁のいない夜を耐えるために、それまでの日を楽しく大事に過ごそう。 離れている間も、暁に僕の事を思い出して貰えるような、楽しい日々を送ろう。 今の僕に出来るのはそれだけだから

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