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ユウリ視点10
「暁、起きて。ここで寝たら風邪をひくよ」
リビングに戻ると、やはり暁は寝息をたてていた。
肩を揺すってみるが、起きる気配はない。
日中は海で強い日差しに当たって疲れた上に、一杯だけではあるがアルコールも入ったのだから、仕方ないだろう。
かといって、テーブルに突っ伏した状態で寝かせる訳にはいかない。
ソファーを押しやり作ったスペースに、リネン室から持ってきた敷布団を敷いた。
「暁、体こっちに倒して」
暁の背中を自分に持たれさせるようにして、引き起こす。そのまま暁の頭を支えながら一緒に布団の上に横になる。枕を合わせてやってから、起き上がりテーブルの下の暁の足を持ち上げて布団の上に引き上げる。
「後はタオルケットでいいかな」
もう一度リネン室に行き、タオルケットを2枚持ってくる。一枚は暁に掛けてやり、もう一枚は畳んだまま抱えて、寝ている暁の側に座り込む。
少しだけ暁の寝顔を見ていようと思った。
無防備に眠る暁が愛しかった。今は閉じている大きな瞳は、いつもキラキラとユウリを見つめてくれる。黙っていると美少年という言葉が似合うのに、明るくて愛嬌のある性格が近づき易い雰囲気で、クラスで人気の三枚目キャラクターになっている。
この寝顔も、嬉しい顔も悲しい顔も、全ての表情を自分に向けて欲しい。その顔を表情を引き出すのは僕でありたいと強く思う。
「暁」
半開きの暁の唇に目が吸い寄せられる。
ゴクリと唾を飲み込んだ喉が鳴るのと同時に、またもや下腹が疼きだす。
抱えていたタオルケットを、脇にやり身を乗り出した。
「暁」
もう一度呼び掛ける。
その頬に手を伸ばす。
近づいた視線の先に、愛しい人の唇がある。
「好きだ…っ」
自分でも聞いた事のない上擦った声が、暁の唇に飲み込まれ途切れる。
想いを込めた、初めてのキス。
触れてしまったら、味わい尽くしたいという、欲望が溢れてしまう。
暁の下唇を甘噛みしその弾力を確かめる。
息苦しかったのか無意識に暁が口を開けた隙に、侵入させた舌で暁の口腔内を探った。
上下の歯列をなぞり、秘められていた暁の舌を絡め、唾液と共に吸い上げる。
下腹の疼きは、ハッキリと形を変えて、熱い脈動にのたうち解放を訴えている。
離れなければならない数年を、僕は耐えられるだろうか?
始めてそんな疑問がよぎった。
幼い頃から、感情を理性で押さえ込むよう仕付けられてきた。己の望む通りにするには、冷静に綿密に計画し行動を起こさなければならない。その為にも、激しすぎる暁への恋情は、心の奥へ仕舞い時を待っていたのに…。
今すぐ暁を僕のものにしたい。全身に僕の所有の印を付けて、誰の目にも触れさせず、閉じ込めておきたい。
「怖いんだ、暁」
離れている間に、暁が誰かを選んでしまう事が…。
このまま暁を抱いてしまえば、嫌われてしまうかもしれないけれど、僕を決して忘れることはないはずだ。
暁の人生の中で、友人の一人という立場では満足できないから。
憎しみという感情でもいいから、暁に忘れて欲しくない。そう言えば、そんな奴も居たっけなんて、生温い思い出にされてしまうのは嫌なんだ。
「暁、ごめんな」
呟いて僕は暁の首筋に舌を這わせ、左手を暁自身に伸ばす。
音を立てて吸い付いた暁の鎖骨の下辺りに、赤い印が幾つも出来上がった時だった。
「ん…ユウリ、どうしたの」
流石に目が覚めたのだろう暁の声に、動きを封じられる。
言い逃れが出来るはずもなく、顔を上げ暁と視線を合わせる。
「何を泣いてるの、怖い夢でも見た?」
指摘されて始めて、自分の頬が濡れている事に気付く。
「大丈夫、俺が一緒だ。こうしてれば怖くないよ」
そう言って微笑んだ暁に引き寄せられ、抱き締められた。
「暁?」
「んー、眠い。ユウリも、もう寝…」
僕を抱き締めたまま、暁は寝てしまう。僕が何をしていたのか気付いた様子もなかった。
「もしかして、寝惚けてたのかな」
これで良かったんだ。
愛しい人の腕の中で、その温もりを感じながら、僕は安堵していた。
激しく昂っていた体の熱は冷め、代わりに冷えきっていた心に温度が戻ってきた。
明日も、暁の側にいられる。
例え、残り少ない刻だとしても…
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