32 / 65

ユウリ視点10

「暁、起きて。ここで寝たら風邪をひくよ」 リビングに戻ると、やはり暁は寝息をたてていた。 肩を揺すってみるが、起きる気配はない。 日中は海で強い日差しに当たって疲れた上に、一杯だけではあるがアルコールも入ったのだから、仕方ないだろう。 かといって、テーブルに突っ伏した状態で寝かせる訳にはいかない。 ソファーを押しやり作ったスペースに、リネン室から持ってきた敷布団を敷いた。 「暁、体こっちに倒して」 暁の背中を自分に持たれさせるようにして、引き起こす。そのまま暁の頭を支えながら一緒に布団の上に横になる。枕を合わせてやってから、起き上がりテーブルの下の暁の足を持ち上げて布団の上に引き上げる。 「後はタオルケットでいいかな」 もう一度リネン室に行き、タオルケットを2枚持ってくる。一枚は暁に掛けてやり、もう一枚は畳んだまま抱えて、寝ている暁の側に座り込む。 少しだけ暁の寝顔を見ていようと思った。 無防備に眠る暁が愛しかった。今は閉じている大きな瞳は、いつもキラキラとユウリを見つめてくれる。黙っていると美少年という言葉が似合うのに、明るくて愛嬌のある性格が近づき易い雰囲気で、クラスで人気の三枚目キャラクターになっている。 この寝顔も、嬉しい顔も悲しい顔も、全ての表情を自分に向けて欲しい。その顔を表情を引き出すのは僕でありたいと強く思う。 「暁」 半開きの暁の唇に目が吸い寄せられる。 ゴクリと唾を飲み込んだ喉が鳴るのと同時に、またもや下腹が疼きだす。 抱えていたタオルケットを、脇にやり身を乗り出した。 「暁」 もう一度呼び掛ける。 その頬に手を伸ばす。 近づいた視線の先に、愛しい人の唇がある。 「好きだ…っ」 自分でも聞いた事のない上擦った声が、暁の唇に飲み込まれ途切れる。 想いを込めた、初めてのキス。 触れてしまったら、味わい尽くしたいという、欲望が溢れてしまう。 暁の下唇を甘噛みしその弾力を確かめる。 息苦しかったのか無意識に暁が口を開けた隙に、侵入させた舌で暁の口腔内を探った。 上下の歯列をなぞり、秘められていた暁の舌を絡め、唾液と共に吸い上げる。 下腹の疼きは、ハッキリと形を変えて、熱い脈動にのたうち解放を訴えている。 離れなければならない数年を、僕は耐えられるだろうか? 始めてそんな疑問がよぎった。 幼い頃から、感情を理性で押さえ込むよう仕付けられてきた。己の望む通りにするには、冷静に綿密に計画し行動を起こさなければならない。その為にも、激しすぎる暁への恋情は、心の奥へ仕舞い時を待っていたのに…。 今すぐ暁を僕のものにしたい。全身に僕の所有の印を付けて、誰の目にも触れさせず、閉じ込めておきたい。 「怖いんだ、暁」 離れている間に、暁が誰かを選んでしまう事が…。 このまま暁を抱いてしまえば、嫌われてしまうかもしれないけれど、僕を決して忘れることはないはずだ。 暁の人生の中で、友人の一人という立場では満足できないから。 憎しみという感情でもいいから、暁に忘れて欲しくない。そう言えば、そんな奴も居たっけなんて、生温い思い出にされてしまうのは嫌なんだ。 「暁、ごめんな」 呟いて僕は暁の首筋に舌を這わせ、左手を暁自身に伸ばす。 音を立てて吸い付いた暁の鎖骨の下辺りに、赤い印が幾つも出来上がった時だった。 「ん…ユウリ、どうしたの」 流石に目が覚めたのだろう暁の声に、動きを封じられる。 言い逃れが出来るはずもなく、顔を上げ暁と視線を合わせる。 「何を泣いてるの、怖い夢でも見た?」 指摘されて始めて、自分の頬が濡れている事に気付く。 「大丈夫、俺が一緒だ。こうしてれば怖くないよ」 そう言って微笑んだ暁に引き寄せられ、抱き締められた。 「暁?」 「んー、眠い。ユウリも、もう寝…」 僕を抱き締めたまま、暁は寝てしまう。僕が何をしていたのか気付いた様子もなかった。 「もしかして、寝惚けてたのかな」 これで良かったんだ。 愛しい人の腕の中で、その温もりを感じながら、僕は安堵していた。 激しく昂っていた体の熱は冷め、代わりに冷えきっていた心に温度が戻ってきた。 明日も、暁の側にいられる。 例え、残り少ない刻だとしても…

ともだちにシェアしよう!