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堅物教授vsドン・ファン学生 5
ただし、これは決してやっかんでいるのではないと御理解願いたい。私自身は女性に興味がないし、彼がどんなにモテようと知ったことでもないからだ。
届けられたコーヒーを黙って啜っていると、結城は私の口元をじっと見つめた。
「先生の唇、色っぽいですね。キスしたくなっちゃうな」
そのとたん、焦げ茶色の液体は食道ではなく気管へと侵入し、私はゲホゲホと派手にむせた。動揺していると見なされるのが悔しいけれど、これがなかなか治まらない。
「大丈夫ですか?」
「……心配は無用だ。それより、つまらない冗談は控えてくれたまえ」
「だって、ホントにそう思ったから」
「思ったことをそのまま口にするほど分別がないのかい? 大学生にもなって困ったものだね」
「自分の気持ちに正直なだけですよ」
「自分の気持ち、ね。それには何か下心があるのかな? 私の唇を褒めたところで可の成績が良に上がるとは思えないけれど」
「そんなふうに考えるのって、ひねくれていませんか? 素直に喜んで欲しいな」
「何ゆえに喜ぶなどという反応を期待するのだ。そっちの思考回路こそ捻じ曲がっているんじゃないのか」
「そうかな。まあ、とにかく俺は先生の唇が好きですよ。唇だけじゃない、メガネの奥のキレイな瞳も、柔らかそうな髪の毛も、真っ白な肌も……」
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