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堅物教授vsドン・ファン学生 6
こちらからの牽制にも関わらず「貴方のすべてが好きだ」などと、今にも告白しかねない雰囲気を漂わせ始めた結城、嘘か本気か、その目が熱を帯びている。学食という色気のない場所でこんな展開になるとは、いったい誰が予想しようか。
久しぶりに聞いた口説き文句は「キミの瞳は星のように美しい」に類似して古臭い上に、かなりダサいというか甘ったるくて、恥ずかしくなるような形容詞ばかり。
いつもこんなふうに女を口説いているのか、彼のような色男ならば、この程度の乏しいボキャブラリーでも通用し、尚且つ、誰かしら引っかかるのかと勘繰ってみるものの、それでも胸がざわめくのを感じた私はうろたえた。
「キミは重大な思い違いをしている。私は男で、しかも、もうすぐ四十路を迎えようという齢だ。そういう口説き方がお得意のようだが、手腕を発揮するのに該当する相手ではない、他をあたりなさい」
「口説いていると聞こえましたか。じゃあ、大成功だ」
いい加減にしろ、大人をからかうんじゃない、などと、ありきたりの反応をするのもバカらしくて、私はしばし沈黙を守った。
頭脳明晰、金声玉振、才気煥発に容姿端麗、才色兼備──これは本来女性限定なのだが、私に限っては用いられるそうだ──人々がこれまで私を形容するのに使用した数々の四字熟語の中に冷静沈着がある。
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