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賭けの対象? 5

 だが、それまで黙っていた結城は顔色を変えることなく「わかりました」と答え、その反応に私は拍子抜けした。当てが外れたという気持ちでいっぱいになり、そいつがまた苛立ちを増幅させた。  来週もこの時間に集合、と解散を告げると、ぶつくさ言いながら学生たちは席を立った。  食堂へ向かう者、次の講義のため校舎へ戻る者、アルバイトに出掛ける者と、それぞれ離散していく中でただ一人、結城は立ち上がろうとはせず、北側の壁際に置かれた書架をぼんやりと見ていた。 「文献かー。どっ、れにしようっ、かなぁー」  奇妙なリズムをつけながら呟く姿をわざと視界に入れないよう努め、私は辺りを慌ただしく片づけると、テーブルの傍から立ち去ろうとした。 「先生、待ってくださいよ」  すがるような声で呼び止められる。その言葉を待っていたのか否か、自分でもわからないまま、私は足を止めた。 「……何かな?」 「お薦めの文献、ありますか?」 「レストランのメニューじゃあるまいし。お薦めかどうかは自分で判断したまえ」  はあ、と覇気のない返事をすると、のっそりと立ち上がった長身の男は棚からぶ厚い本を取り出した。 深緑色の背表紙に金色の箔押し英文字が入った、幾多の文献の蔵書だ。 「うへー、全部英語で書いてある」  当たり前だ。

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