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賭けの対象? 9

「そういう状態は進化とは呼ばない。敢えて言えば変化だ。とても遺伝学を専攻しているとは思えないな、言葉の用い方に気をつけるように」 「変化か。たしかにそうですね」  とんちんかんな発言にも関わらず素直に同意し、ひとしきり頷いた結城はそのあと、グイッと顔を近づけてきた。 「ところで先生に質問。ナオヒコさんって誰ですか?」 「ナッ……?」  爆弾が破裂したような衝撃を受けて、私は腰を抜かしそうになった。 「あ、びっくりしましたね。やっぱり、ワケありの人なんだ」  結城の表情から目が離せないまま、私は喘ぐように尋ねた。 「どっ、どうしてその名前を?」 「知りたいですか?」  彼はふふんと笑うと、実験室と隣室を仕切る壁に設けられたドアを指さした。 「なるほど、そこから侵入して……」 「人聞きが悪いなぁ、ちゃんとノックして入りましたよ。寝ちゃってた先生が気づかなかっただけです」  先にも説明したように、研究室は二つの部屋から成っており、執務室には大きな事務机やら講義の資料、専用のパソコン、専門書の並んだ棚、疲れた時に横になれる、ベッド代わりの長いソファなどが置いてある。  その他には私の個人的な趣味で観葉植物の鉢が数個、床に置いたり、窓枠に掛けて吊るしてあったりするのだが、仕事の合間にこれらのグリーンを眺めるのが無趣味な私にとっての、唯一の癒しだった。

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