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天敵現る 6

 オジサン、オヤジ、ジジイ──  屈辱的な四文字ないし三文字が頭の中でぐわんぐわんとエコーする。  世間の常識からいえばそのとおり、年齢的には中年の域に入っている私だが、これまで学生たちから憧れや尊敬の眼差しを受けることはあっても、オジサン呼ばわりされることはなく、従って面と向かって言われたのは初めてである。  おのれ、何たる侮辱。こいつに言い負かされたりしたら、生涯悔いが残るだろう。 「オジサンっていえば、そのメガネ、もしかして老眼鏡じゃないですか」 「子供の頃から近眼なんだ。新聞の文字はよく見えるよ」 「なあんだ、てっきりそうかと思った。でも髪の毛はカツラだったりして」 「地毛だよ、有難いことに白髪もない」 「へえー。それで若さをアピールしたつもりなんですね」 「アピールしたおぼえはないけど」  ますます険悪になるムードの中、三田は嘲るように言い放った。 「だいたい、オジサンが若い男に入れ込むのって、いやらしくありませんか? 金持ちのジイサンが女の子に入れ揚げるのと同じぐらい、いやらしい感じがしますよねぇ」  いつ、誰があのバカに入れ込んだ? 若い女を金で買うようなスケベジジイと一緒にするなっ!  「しっつれい、しまぁーす」  グッド、いや、バッドタイミング。実験室側の扉をガンガン叩く豪快なノックの音と共に、調子のはずれた「失礼します」を口にしながら、問題の人物がこちらの部屋に入ってきたのだ。

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