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天敵現る 8

「せんぱーい、結城先ぱいーっ」  閉ざされてしまったそこをドンドン叩く音と共に、三田の悲痛な呼び声が響く。クゥーン、クゥーンと捨てられた仔犬の鳴き声のように聞こえて憐れだ。さすがに可哀想に思える。  やがてその声も、扉を叩く音も聞こえなくなり、辺りは静寂に包まれた。お騒がせなヤツがようやく去って安心したのか、結城は疲れた様子でドカッとソファに座り込んだ。 「手荒いことをするね」 「ほっとけばいいんですよ」  余計な真似を、と苛立った表情より視線を逸らし、椅子から立ち上がった私は部屋の隅にある湯茶コーナーの前へ進むと、いつものインスタントコーヒーを淹れにかかった。 「飲むかい?」 「いただきます」  こぽこぽと電気ポットから流れ出る湯の音が途切れたあとには沈黙が広がった。  お調子者の部類に入る結城が弁明もせずに黙ってしまったのは、私の怒りを買ったと危惧しているせいだろうが、敢えてこちらから蒸し返す必要もない。  私は備前焼のコーヒーカップを彼の前に置くと、自分のカップを机まで持って行き、再びパソコンの電源を入れた。 「……窓のところに吊るしてあるのはポトスですか?」  このままずっと黙っているのもどうか、まずは無難な話題から入ろうと思ったらしく、結城はマイ・コレクションの観葉植物について尋ねた。 「その隣のやつ、見たことあるけど、名前は知らないなぁ」

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