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天敵現る 10

 私が厭味を言ったと吹聴していたわけではないらしい。オヤジ呼ばわりは不愉快極まりなかったが、少しだけ気分が楽になり、ようやく返事をする気になった。 「それで、退部したい本当の理由は?」 「金……です」  またしてもだ。この男には金がらみの話が多すぎる。 「サーフ&スノーか、たしかに金のかかるサークルのようだね。活動を続けるのは大変かもしれないが、それならそうと、正直に話して辞めればいいだろう?」 「そういうわけには……今の後輩たちのほとんどは俺が勧誘して入れたんですよ。活動費用が続かないから辞めるだなんて、オレたちには金を出させたくせにって思われて、しめしがつかないじゃないですか。それに、本当のことを話したせいで俺自身が引け目を感じるのも辛いし」  常に我が道を行く、自信たっぷりというより自意識過剰の男。そんな結城の、いつもの彼らしからぬ憂いを帯びた表情を見るのは初めてだった。 「本当のこと、って」 「……親父が倒れたんです」  ふいの告白に、私は返す言葉を失った。 「三月の終わり頃に脳梗塞で。でも、それほど重症じゃないんですよ。リハビリを頑張ればすぐに社会復帰できるって言われて、今はそのリハビリ中です」 「お父さんが……」  私の様子がよほど深刻に見えたのだろう、結城は慌てて「そんな、先生まで暗い顔しないで」と弁解するかのようにつくろった。 「いや、しかし、脳梗塞というのは重症じゃないのか」

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