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天敵現る 11
「この前実家に帰って、病院へも見舞いに行ったんだけど、わりと元気そうだったし、心配はいりませんから。ただ、入院だ何だで金がかかって。学費は貯金で用意してくれてたけど、毎月の仕送りの額は期待できなくなっちゃったから、親父が復活するまでバイト代で食いつなぐしかないって」
三回生に進級したとたんに退学なんて悲しすぎる。卒業まで何とか頑張ろうと、彼はバイトの数を増やして仕事に励み、生活費を切り詰めるようにした。
その表れが合コン不参加であり、費用のかかるサークルから退部することで、それらに費やしていた時間をすべてバイトの時間に回そうとしたらしい。
「何かにつけて金、金って言ってたでしょ? 金の亡者みたいになっちゃって、我ながら情けないなぁって思います」
そう言って苦笑いする彼を慰めるのも気が引けて、私は小さな声で呟いた。
「あの賭けの四万円があれば、少しは楽になったわけだ」
「そんな、俺はまだ先生を落としたわけじゃないから、賭けには勝ってませんよ」
まあ、そういうことになるか。
コーヒーで喉を湿したあと、結城はわざと明るい声で続けた。
「でもね、親父には悪いけど、こうなって良かったと思うんです。毎月、仕送りしてくれるのを当たり前だと受け止めていた、それじゃいけないって。金を工面する両親の苦労がわかって感謝するようになりました」
殊勝に語る姿に心が動く。
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