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天敵現る 12

「それはまあ、そうだね。キミの人生において、とてもいい経験には違いない」  私が励ますように話しかけたのが彼を調子づかせ、心の内に溜めていたらしい思いが溢れ出てきた。 「俺、得意科目が生物っていうだけで、この大学に進んだ目的とか、将来どうしよう、なんて考えがまったくなかったんです。それで何となく受験して受かって、東京や横浜に近くていいや、って軽い気持ちで入学したんですよ。だから、二年までは遊んでばかりだった。サークルにしろ何にしろ、頭にあるのは女のことだけ。それも全然マジじゃない、楽しいお遊びとしか捉えてなかった」  ドン・ファン誕生秘話というわけか。二回生までの教養課程のつまらなさも拍車をかけていたようだ。  ところが進級して専門課程となると、講義の内容が面白くなってきたのと、研究室への入室が彼を勉強に目覚めさせたらしい。 「今の俺にとって何が大切で、何をやらなきゃならないのか。三年になって、ようやくわかった気がします。楽しいですよ、特に先生の遺伝学の講義が」 「そうかな、退屈だというクレームが多いんだが。毎年のように言われるよ」 「じゃあ、先生を見ているだけで嬉しいっていうか、幸せなのかもしれないな」  歯が浮くようなセリフなど、わざと聞かないフリをするひねくれ者はいい加減なコメントを述べる男の顔を睨んでみせた。 「それは講義の内容など、どうでもいいという意味かな?」 「えっ、ち、違いますよ」

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