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嫉妬と不覚 2

 結城の腕に寄りかかるようにしてはしゃぐ様子は絵になるというか、まるで恋人同士の雰囲気である。  今日も定番のグレーのスラックス、淡いブルーのワイシャツの上に白衣をはおり、銀縁メガネをかけた地味な服装の私は若く、華やかな二人を呆然と見送っていた。  日本人は諸外国の人々に比べて、若さを賛美する傾向が強く、その逆に齢を重ねること、老いに対する嫌悪感が強い。対象が女性ならなおさらである。  欧米の女性たちが熟女になることを誇りにしているのは、人間として円熟味を増す者を評価する高等な文化がそこにあるからだ。  若者ばかりをちやほやするこの国の文化はけしからん、もっと諸外国を見習うべきだ、などと常日頃持論をぶっている──とは言っても、テレビや新聞に向かってブツブツと独り言を呟くだけなのだが──私だが、この時ばかりはその持論が吹き飛ぶ辛さを味わう羽目になってしまった。  年寄り臭い表現になって恐縮だが、弾けるほどの若さに溢れた結城たちは私の目に眩しく映り、若者に対する憧れの感情がかき立てられるのを感じた反面、いくら年齢のわりに若く見えても、本物の若さの前では所詮、しょぼくれたオヤジとしか見られない自分の存在を思うと、引け目を感じてたちまち気が滅入ってきた。  クールで知的というお褒めの言葉も、イケメン大学教授というご立派な立場も、この場合は何の慰めにもならない。

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