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嫉妬と不覚 9

「わかった。私からかけておく」  尚彦への電話など実行する気もないのに、私はそう答えた。  四年前に別れて以来、彼とは一切連絡を取っていない。  その後、年賀状などの便りが届いたけれど、返事は書かずにいたし、携帯電話の番号も変えた。二人を結ぶすべてのものを断ち切ることのみが自身のプライドを守る手段だったのだ。  それにしても、普通ならばこれ幸いと、私と尚彦の間を邪魔しようと考えるはずなのに、その彼に連絡すると言い出すなんて、この男はどこまで気をまわすつもりだろう。 「病院内でのケータイは禁止ですよ」 「当たり前だ。公衆電話からかける」 「そこまで歩けるんですか」 「車椅子を使えば何とでもなる」  押し問答を続けたあと、結城はガッカリした表情で小さく溜め息をついた。 「もうちょっと居たかったんだけどな……それじゃあお大事に。おやすみなさい」  彼が病室から立ち去ったとたん、またしても激しい後悔の嵐が私を襲った。  一学生である結城が師とはいえ、私のためにここまで尽くしてくれているのに、冷たい態度を取った上、ろくに礼も言わずに追い返すなんて見下げたヤツ、そんな自分がイヤになる。  結城が三田と仲良くしていた、いや、しなければならない立場だからといって、彼を責め立てたところで何になろう。

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