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パンダと茄子とクリスマス 9
クリスマスといえばポインセチアよりも悲惨な扱いを受けているのがケーキだ。もっとも、食べ物の場合は賞味期限が重要なので、仕方のないことだけれど。
初婚年齢が上昇した昨今、イブの二十四日以降に売れ残ったクリスマスケーキを適齢期過ぎの女性に喩えるなどの不届きな言い草はさすがに聞かなくなったが、結婚適齢期とはナニゴト、人間に賞味期限を設けるとは失礼な話である云々──
──まただ。
またしても年齢ネタに対してムキになるのはやはり、自分と結城の齢の差を気にしているから、若い三田の存在を意識しているから。焦燥感に襲われる。
「期限を設けて値打ちを決めるのって、あんまり好きじゃないし」
そう呟いた結城の言葉に反応して、
「まったくだ。売れ残りのクリスマスケーキなんて」
つい口走った私を彼は不思議そうに見た。
「俺、ケーキの話してましたっけ?」
「い、いや、これはその……ちょっと」
「先生って面白いなぁ」
その視線に優しさと温かみを感じて、私は思わず目を逸らせた。胸がドキドキして痛いほどだ。
「研究室に入ったときの第一印象は素敵だけど、クールでちょっと近寄りがたい、だったんですよ。高嶺の花っていうのかな、だからなおさら、振り向かせたい、何とかして落としたい。賭けの対象にしたのもそういう気持ちがあったからなんだけど」
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