60 / 113

パンダと茄子とクリスマス 10

 高嶺の花か。こんなオジサンを修飾するのに用いる言葉とは思えないが。  くすぐったいような、照れ臭いような、それでいて申し訳ないことをしている気分になり、気持ちを落ち着かせようと二度目のアールグレイのカップを口に運ぶ。今度こぼしたら笑い事では済まない。 「あの頃と今と、どっちが好きだって訊かれたら、迷わずに今だ、って答えます。これだけ優秀な人なのにドジ踏んで失敗するところ、人間味があって断然、魅力的だって思いました。先生を知れば知るほど、その人柄の素晴らしさを実感したって感じです」  マヌケな部分までも魅力として評価してもらえるとは光栄の至りであるが、彼の心の内をじっくりと聞かされて、嬉しいはずなのに切なくなってきた。  私たちの間に恋愛感情など存在してはならない、はず── 「マジでベタ惚れなんです。こんなにハマッたの、たぶん初めてだと思う。ほら、今までの俺って、声をかけるのもかけられるのも簡単だったから、ムキにならなくても相手をゲットできたし、誰に対しても軽い気持ちでつき合えた。その状態に慣れちゃったせいか、これだけマジすぎると胸が苦しいです」  真剣な眼差し、矢継ぎ早の告白に対して、何もリアクションできないままの私に、結城はさらにたたみかけた。

ともだちにシェアしよう!