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パンダと茄子とクリスマス 11

「キスから始めるのは短絡的だ、工程を端折るなって言われたから、こうやって俺の想いを詳細に述べています。これでも言葉が足りませんか? 必要な段取りを省略してますか? あとはどうすれば」 「いや、それは……」  どう答えたらいいのだろう。  もう何も迷わずに自分の気持ちを伝えようと後押しする心と、教え子に対して不埒かつ恥知らずな真似をしていいのかと引き止める心が綱引きをする。  テーブルの上に置いた私の手を握ると、彼は「俺のこと、嫌いですか?」と訊いた。 「嫌いなんて、そんな……」 「ナオヒコさんという人がいるのは承知の上で、それでも少しは脈があるかと思って、メゲずに頑張ってきました。今の正直な気持ちを聞かせてください」  慎重に言葉を選ばなくてはと緊張しながら、私はゆっくりと答えた。 「……キミの気持ちは嬉しいよ、とても有難いと思っている。だが、私たちは男同士だ。それだけでも問題なのに、私とキミの間には開きがありすぎる。よく考えてみたまえ、私はキミ自身より、キミのお父さんの方に齢が近いんだ。その事実をわかってるのか、ちゃんと自覚しているのか?」 「そんなことを気にしているんですか」 「そんなことって……」  またしてもあっけらかんと言ってのける結城に、私は呆気にとられた。 「俺、去年の暮れに三十代後半の女の人とちょっとだけつき合ったけど、齢の差がどうとかって気になったことも、相手が気にしていたこともありませんけど」

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