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皮肉な再会 8
グレーのスーツ姿の紳士は五十代ぐらいか、大阪から来たという男に対してにこやかに話しかけているが、こちらに背中を向けた位置に座った相手の顔はわからない。それぞれの妻も対面する格好で会話しており、華やかな笑い声が毒々しく響いた。
「そうだ、ボクの尊敬する結城先輩を叔父さんたちに紹介しよっと」
彼女、いや、彼氏を紹介する気分なのだろう。私のイライラ指数はさらに上昇する。
言うが早いか、三田はそちらのテーブルに行くと、結城の方を指さして何やらしゃべり始めた。
言葉ははっきりと聞き取れないが、一斉に振り向いた彼らを見た刹那、私の中に衝撃が走った。
──尚彦だ!
いくらか齢を重ねてはいるが、見覚えのあるギリシャ彫刻のような顔立ち、忘れようとしても忘れられない秀麗な面影、三田の叔父と歓談していた男は尚彦だったのだ。
モスグリーンのジャケットにカーキ色のパンツ、アイボリーのシャツと朱色のネクタイを合わせるという抜群のセンスは昔と変わっていない。
髪は黒く白髪も混ざってはいないし、体型も崩れることなくスラリとした長身で、その男振りの良さは中年太りに悩む同世代からさぞ、羨ましがられるだろう。
そういえば、いつぞやの年賀状に転職して大阪にいると書いてあったが、まさか三田の父親の会社に入社していたとは。その上、横浜にて劇的な再会というシナリオに、私は運命を呪わずにはいられなかった。
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