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皮肉な再会 9

 次の瞬間、私と尚彦の視線がかっきりと合った。彼は目を皿のようにすると、愕然とした表情でこちらを見つめた。  間の悪いことに、今日の私は彼が選んで買った服を着ている。いかにも未練がましいではないかと、冷や汗が背中を伝った。 「先輩、ちょっと来てくださいよぅ」  再び駆け寄ってきた三田に腕を取られた結城は楽しい宴席で拒むのもどうかと考えたのか、仕方なさそうに立ち上がると、あちらのテーブルへと向かった。  彼が三田の叔父に会釈をすると、尚彦も二言三言、声を掛けるのが見えた。もしや私のことを問い質しているのではと思うと、いたたまれなくなる。  結城が席へ戻るのに同行した三田の叔父が私たちに挨拶し、彼と交代のつもりか、尚彦が立ち上がったのを見て、私の心臓は張り裂けんばかりになった。  頼むから挨拶なんてやめてくれ、せめて結城のいないところで……  しかし、いい大人がそんな常識のない真似をするはずもなく、尚彦は妻を同伴してこっちにやって来た。 「久しぶりだな、準一」  柔らかいバリトンが耳に響く。この四年間、忘れたことはない声だ。 「こんな場所で会うなんて、思ってもみなかったよ」 「……ああ。おまえも元気そうで何よりだ」  私は喉から声を絞り出すようにして答えたが、頭の中は大混乱を起こしており、早く落ち着かなければと気ばかりが焦った。

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