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皮肉な再会 13

 横浜駅まで戻り、上りの東急東横線の車中でようやく空いた座席を私に勧めた結城は吊り革につかまると、車窓を眺めたまま、しばし無言だった。  訊きたいこと、確かめたいことは山ほどあるに違いない。それとも、今さら訊きたくもないのだろうか。  ガタンゴトンと列車の奏でる音だけが響き、大勢の乗客たちは誰も彼も黙りこくっている。こんなにも明るい車内なのに不気味な静けさだ。私は目を閉じ、居眠りするふりを続けた。  乗り換えの駅が近づいてきた。ここで私と結城は別々の方向に分かれるはずだが、案の定、彼はマンションまで送ると言い出した。敢えて何も言わずに、最寄りの駅前からタクシーに乗り込む。  ポケットの鍵を探り、玄関を開ける。今朝と同じ光景を繰り返したあと、私の勧めも何もないうちに上がり込んだ結城はテーブルの脇の椅子にどっかりと座った。 「……先生の怪我は俺のせいだって」 「えっ……?」  思いがけない第一声に、私は肩透かしを喰らった。てっきり先程の男の──尚彦の話を持ちかけてくると思い込んでいたからだ。 「先生が階段から落ちる現場を見ていた人が松下に御注進してくれちゃったみたいです。ここを出たあとに聞かされました」 「キミが私を突き飛ばしたわけでもないのに、何を御注進したというんだ」

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