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女王陛下の騎士 1

 日曜日・丸一日を部屋に引きこもって過ごした私はどんよりと沈んだ気持ちのまま、月曜の朝を迎えた。  いつもより一時間以上早く目が覚めたため、植物たちに声をかけながら水をやる。オタクっぽい所業だと笑われるだろうか。 「おはよう、ピレア。調子はどうだい」 「フィットニア、いい葉が出てきたね」 「パンダナス……」  面白い名前だと笑顔を向けた彼を思い出すと、胸が痛んだ。  結城からの告白を受け、私も彼が好きだと自覚した。ならば二人はハッピーエンドとなるはずなのに、どうしてこんなにも関係がギクシャクするのだろうか。  二人の年齢差にそれぞれの立場と歩んできた過去、三田の存在、尚彦の出現、あらゆる要素が互いを不安に陥れたり、疑心暗鬼にさせたりして自信を失わせ、嫉妬に悩まされる羽目になる。  恋愛に紆余曲折はつきものだろうが、さすがにしんどくなった。彼のことを考えずに済むように、このまま忘れてしまいたい……  呼び鈴が鳴って我に返る。こんなに早くから誰がと思いつつ、スエット姿のまま赴いた私はドアの向こうに立つ人物に驚愕した。 「おはよう。この辺りの風景も随分変わったけど、とても懐かしい気分だよ」  チャコールグレーのスーツに濃紺のネクタイを締めた尚彦は三和土から室内を見回すと「相変わらずジャングルみたいだな」と感想を述べた。 「とりあえずはコーヒーが飲みたいな。おまえの淹れるモカは美味かった」 「モカは切らしてるんだ、キリマンなら」 「ああ、それでいい」

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