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女王陛下の騎士 7
抜群のタイミングで私の携帯電話が鳴った。ディスプレイに表示されている名前は日立尚彦、まさに万事休す。
「出ないんですか」
「……いや」
「早く出た方がいいですよ」
じりじりと時間が焼けつき、緊迫した空気のせいで息苦しい。
十数回のコールで鳴りやんだ電話機を手に、私と結城はしばし睨み合ったままになった。空気が重い。
次に鳴ったのは大学の構内を結ぶ内線電話で、事務室への来客の知らせ。電話に出なかった私を心配した尚彦だと、聞かされなくてもわかった。
「とにかく、今日はもういいから帰りたまえ」
「わかりました。ただし」
そこで言葉を切ると、結城は私の顔をねめつけた。
「タクシー乗り場までお見送りします」
「……勝手にするがいい」
こうなったら腹をくくるしかない。
施錠を済ませた私はできるだけ急いでエレベーターへと向かった。背後に寄り添うように結城が続く。
大学の事務室はこの研究棟の一階に設けられているが、スーツ姿の男はそこを出て、建物の外で待っていた。
「今日は残業がなかったんで、帰りも乗せてやろうかと思ってな。一応連絡を入れてみてよかったよ」
にこやかに笑いかけた尚彦は私の後方に立つ人物に気づくと、不思議そうな顔をした。
「彼はたしか洋くんの先輩だったよね」
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