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女王陛下の騎士 9
「おい、いい加減にしろって!」
私が声を荒げると、尚彦は舌を出して肩をすくめた。
「ああ、悪かった。君、結城くんだったね。準一に悪い虫がつかないように、よろしく頼むよ。何たってオレの大切な親友だからね。さて、それじゃあ、ぼちぼち参りますか」
朝と同じく、正門の方に車を停めたという。先に立って歩き始めた尚彦の背中をねめつけながら「ども」以降、何も発言しなかった結城は「今朝乗ってきたのも私設タクシーだったんですね」と訊いてきた。
ジェラシーボルテージは最高値に達しているのだろうが、感情を押し殺そうと我慢しているのがよくわかる。
今さらどんな弁解も言い逃れもできないと、私は黙って頷いた。
駐車場まで移動すると、尚彦は「君も乗って行くかい? 下宿はどっちの方向かな、送ってあげよう」と結城に声を掛けた。
「いえ、御迷惑でしょうから」
「遠慮しなくてもいいよ」
「ここで失礼します。お気をつけて」
踵を返す結城にそれ以上何も言えず、私は再び尚彦の車の助手席に乗り込んだ。
「いやはや、おとなしくしていたけど、本当はハラワタ煮えくり返っていたんじゃないのか、あのカレシ」
ニヤニヤと笑ってこちらを見る男から視線を逸らし、私は「さっさと帰ろう」と促した。
「はい、女王陛下」
「大概にしろよ」
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