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②
「すまん、大丈夫か?」
乃木のそんな言葉が耳に届く
(今しかねぇッ)
足に力を込め、より一層加速
そんな後ろから
「神谷、待てッ」
叫び声が聞こえるが、知ったこっちゃない
階段を飛び降り、がむしゃらに走り
(視聴覚室、ここならっ)
目に付いたその教室に逃げ込んだ
(マジ何だッつーんだ…)
今日は厄日だ
弱点を知られた上に、乃木の馬鹿にキスをされて、追いかけられるは、何で俺が隠れなきゃいけない
そんな時、息を整えている俺に聞こえたのは
近付いて来る足音
(クソッ!誰か来やがった)
乃木かと思い体が強張る
息を殺し、入って来るな!そう願うが‥‥
その願いむなしくガチャッと扉が開け放たれた
「!!!」
「あれ?神谷、どうしたんですかー?」
そこに居たのは、ニッコリと微笑む市
扉近くでしゃがみ込んでいた俺を上から見下ろすその目と合った瞬間
ドクリッと心臓が跳ねた
「い、いいから早く入れ」
「うわッ」
入口で突っ立っている市が居れば、俺もここに居る事がバレるのは、時間の問題
市の腕を掴んだ俺は、有無を言わさずコイツを引っ張り込んだ
それと同時にバタンッと扉が閉まり、小柄な市を抱きしめる
「神~んごッ!うーうー」
(静かにしやがれ、バカ市ッ)
こっちの身にもなって欲しい
暴れる市を背後から押さえ付け、まだしゃべり出しそうなその口に、手を当て塞ぐ
すると程なくして‥
「神谷ァ、どこ行ったーーー!」
「ッ!!!」
乃木のバカでかい声が響き渡った
(気が付くなッ、さっさと行け!)
久々に緊張感が張り詰める
大勢の奴らが喧嘩を吹っ掛けて来た時でさえ、こんな事はなかった
それはきっと
あいつと本当に反りが合わないんだろう
その事が物語っているとしか言えない
バクバクと痛い程打ち付けていた心臓
少しずつ治まり
落ち着いた頃には
耳に乃木から発する音は聞こえなくなっていた
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