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第十六話
朝ご飯を食べに寮の食堂に向かった。今日は土曜日の朝、学校は休みだが食堂は通常と同じように開いている。学校が休みの日ならば、朝を食べ損ねても外出許可をもらい遅めの朝ご飯を食べに行くことが出来る。その為いつもは席を確保する為に朝早くに食堂に行く必要があるが、今日はそんな苦労も必要ないほどに人が少なかった。
食券と引き替えて今日の朝ご飯ののったお盆を手に席に着く。外を見ながらゆっくりと朝ご飯を食べようとしたとき、自分に影がかかった。こんなに席が空いているのにわざわざ近づいてくるばかはだれかと振り向く。そこには九条がお盆を持って立っていた。
「隣いいかな?」
「席ならば他にもあいているだろ。そっちへ行け」
「冷たいなあ。そういうときはいいよって言うもんだよ」
「なぜだ」
「俺たち友達だろ~」
そもそも九条とは一年の時から同じクラスだったと言うだけで特に親しくしていたわけではない。俺にかまうようになったのは二年に上がってからだ。一年の最後、あの生徒会選挙で俺は不覚にも泣いてしまったのだ。決して悲しくてではない。悔しくて、だ。それに号泣とかもしていない。ただ、少し、少しだけ目から涙が出てしまっただけだ。俺がトイレで少しの涙を流していた時偶然にもトイレに入ってきた九条に泣いていたことがばれてしまった。そのときは何でもないような顔で俺からすぐに目を離した。次の日も特に何もしてこなかったし言わなかった。でも二年になってクラスの顔ぶれが変わった時こいつは俺にかまうようになった。
「そんなものになった覚えはない」
「まあまあ、いいじゃんか。副会長さんは気が短いですねw」
「ふざけるのもいい加減にしろ。俺は部屋に戻って休みたいんだ。お前にかまう暇はない」
「…その様子だと、昨日は本当に体調が悪かったんだね」
「はあ?どういう意味だ」
「噂になってんだよね。副会長」
どういうことか全く分からない。でも言われてみれば、いつもうっとうしいくらいにあいさつをしてくる奴らが今日は居ない。休みだから、にしても1人も居ないのはおかしい。周りを気にしてみれば俺の方をちらちらと見てくるやつらが何人もいる。
「昨日副会長は赤い顔で涙目になりながら廊下を歩いてたって」
「それは体調が悪くて」
「もしかして副会長は誰かに犯されたんじゃないかって」
「はあ?!」
「まあ、副会長きれいっていうか、色気みたいなのがあるからねえ。そんなうわさもたつでしょ」
「色気?」
「俺もさ一年の時は全く思ってもいなかったよ。ただのまじめ君じゃんって。でもあの時、一年の選挙の時に泣いてる副会長見てなるほどねって思ったよ」
「はあ?!意味が分からん!お前の目が腐ってるんじゃないか」
まだそのことを覚えていたのかこいつ。何も言わないからてっきり忘れたんだと思っていたのに…
「あはは、ひどいなあ。俺は本気だよ」
九条は顔を近づけ俺を舐めまわすような視線を向けてくる。
「俺ははあの時お前を泣かせたいって思った」
「な、泣かせたい...?」
こいつは本当に頭がおかしくなったのだろうか。それとも、あの父親のように俺に暴力を振るいたい最低なやつなのか。でもこいつはチャラい見た目だが容量はいい。急に殴りかかってくるなんてばかな真似はしないと思うが…
「いじめじゃないぞ。俺は副会長の快楽でゆがんだ顔が見てみたい」
急にまじめな顔になったと思ったら口から出た言葉は大神と同じような言葉。もううんざりだ。
「近い!離れろ」
机に身を乗り出し顔を近づけていた九条を押しのけ、食べ終わった食器を片付けそのまま俺は九条とそのほかの知らない奴らの視線を無視して食堂を後にした。
「なんなんだよ、噂って。冗談じゃない」
さっき九条から聞いた噂に文句をつけながら寮の自分の部屋に戻る。その間にすれ違ったやつらからは食堂で感じた嫌な視線を感じた。
やっとの思いで自室にたどり着く。声をかけられるのもつかれるがただ見られるだけというのもつらいんだと初めて知った。
「やあ、朝ぶりだね。佐々木君」
「何で…」
自室の扉の前には大神が扉をふさぐようにして立っていた。
「アメはもう終わり。次はムチの番だよ」
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