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第7話

「どうした貴澄?」  ここでも龍之介と虎之介は清姫を巡って争うのか? だが今回は虎之介が清姫の実弟だと思えば軍配は(諒太)より琥太郎に上がるのだろう。この三角関係はいつまで続く? そして俺はいつまでその三角関係の傍観者でいればいい? そもそも俺はなんで傍観者でいなきゃならんのだ? 「おい、貴澄? 具合でも悪いのか?」  琥太郎が頭を抱えた俺の顔を覗き込む、その何も分かっていない表情に俺は腹が立って仕方がない。  それは衝動的な行動だった、琥太郎の胸倉を掴んで口付ける。いや、それは口付け以前で顔と顔とがぶつかった程度の接触だったのだが、琥太郎は驚いたように瞳を丸くした。 「な……おまっ、突然なにっ!?」 「なんにも分かってないくせに!」 「は? なにが?」  前世で俺は一人だけとても幼かった。姉達の恋愛事情に口を出す事も出来ない程度に幼くて、そして何も行動できない無力な子供だった。  けれど今は違う、俺と琥太郎は同級生で立場だって同等だ。なのに何故俺はこそこそ隠れて三人の恋愛事情を見守ってなければならないのだ!? そんなのとても理不尽で、そしてこの気持ちを抱えて生きるのに俺はもう疲れていたのだ。 「思い出せ! お前は虎之介なんかじゃない、龍之介だっ!」 「え……」 「違うんだよっ! お前の記憶は間違ってる、なんで思い出さないんだよっ! なんでそんな簡単に他人を信じるっ、お前はいつだってそうやって損な役回りばっかりだ!」 「な……貴澄、落ち着けって。お前、なんでそんな事……」 「裏切られた事に気付いてもないお前は幸せだったかもしれないけどな、見てるだけで何もできなかったこっちはどれだけ苦しんだと思ってる!」  俺は悔しくて仕方がないんだ、確かに龍之介は家督を継ぐ者として育てられていて一見何もかもを持ち合わせている幸せな人間に見えていた、けれど龍之介は人はいいが少しばかり人望に欠けていた。それは身分が低いというだけで蔑ろにされていた虎之介の出来が良すぎたばかりに、龍之介を軽んじている家来がいくらもいたのだ。 「お前は裏切られていた、虎之介にも家臣たちにも清姫にさえも、そんなお前を俺がどんな気持ちで想い続けていたかお前に分かるか!? 俺は、俺だけはお前と共にありたいと、そう思って、ずっと……」 「ちょ……待て、貴澄」  一度思いのたけを叫んでしまったらもう止まらなかった。言いたくて言えなかった過去の真実、最後の方はもうボロボロで涙が零れて言葉が出てこない。 「俺が、龍之介……だったらそれを知ってるお前は、誰だ?」 「どうせお前は思い出しもしないだろうさ、お前にとって俺はその程度の存在だからなっ」 「待て、待て、待ってくれ!」 「もういい、これ以上俺を振り回すな! 俺は今を生きている、過去のお前等のいざこざなんか見たくないし聞きたくもない、勝手にやってろよ!」  俺は琥太郎を突き飛ばし逃げ出した。どんな顔をしていいのかも分からなくて、俺にはもうそれ以外の選択肢がなかったのだ。

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