2 / 57

クリミナルアクト 1 須上健登

大学卒業後、オレは普通の会社員としての 仕事をしながら18の頃から、変わらない 裏の仕事もしている。 最初は大学の費用として使っていた。 残りは蒸発した親の借金に当てていた。 親が事業に失敗したのだ。 闇金から紹介されたのが、裏の仕事だった。 今は返済が終わっているので、それほどの 仕事はこなしていない。 完済までにさらった人数……30人 残り5人分の報酬は生活費に当てた。 そして、誘拐パターンはいつも同じだ。 顔を武器にして、警戒心を解き、 小さな子供を言葉巧みに誘拐して、 依頼のあった組織へ渡す…… もちろん通常の仕事もしている。 見た目も地味で顔を隠すように前髪も長く、 目立たなく、小心者を装いながら、 会社の隅っこでずっとパソコンを叩いていた。 テレビやネットでは、そのニュースが たまに流れる。 最初の『岳人』の誘拐から 15年の歳月が流れていた。 まもなく初めての誘拐の公訴時効を迎える。 余罪があるから、完全ではないが…… オレ――須上健登(すがみ けんと)も33歳になっていた。 40までには裏の仕事は引退しなきゃいけない、 と思い始めるようにもなってきていた。 いつまでも、若くはない。武器がなくなっては 出来ることも出来なくなるし…… 今は防犯カメラがあちこちにつきすぎて、 仕事がし辛くなってるのも現状だ。 小さな子供だけではないが、出会い系を 装い、肌を重ねた上で売り飛ばした女の子も もちろんいる。さすがに男性経験はない。 この仕事をしていると彼女すら作ることが 出来ない。犯罪者と繋がりたい異性など、 余程の奇特な人物だ。 支度をしながらも垂れ流しているテレビから 流れてくるニュースを見ても、 なんの胸の痛みもない。感情移入していたら、 この仕事は務まらない。 ただ、連れ去られた先でどうなったのか…… 生きているのかさえ、わからない子供たちに してしまったのは、他ならぬ 自分自身なのだから…… 『ケントは行かないの?』 二度と会うこともないだろう 岳人の最後の言葉が耳に焼き付いて離れない。 前にも後にもそんなことを言われたのは、 彼だけだった。 海外に連れていかれて、子供を売られたのか、 臓器売買で処分されたか、 悪魔崇拝の餌食にされたかもわからない。 男女問わず、隙のある子を狙った 完全犯罪のはずだ。 15年もの間、なんの手がかりも掴まれず、 今まで疑いの目を向けられたことも無い。 『早く会いたい、見付かって欲しい、 笑顔が見たい』 そんな言葉がニュースやネットを 彩っているが、 海外へと出ていってしまった子供が 戻ってくるはずもなく、未解決事件と なっているのが現状だ。 『○○ちゃんの失踪から‪✕‬年が経過し……』 そんな音声を聞きながら出勤準備をする。 朝のニュースの確認は、日々の日課に なっている。保身のためだ。 こんな仕事をしてるのは自分だけではない。 この仕事だけではなく、イタズラ目的だと 完全にわかるものもあれば、目的が違うものの 差がニュースの内容でわかわかるように なってる自分にも嫌気がさしている。 明らかに、自分と同じ目的で攫われているのに 中には身に覚えのない行方不明事件もあった。 ――足を洗うと言ったら…… やっぱり、消されるのだろうか……? そんなことを考えるようになった。 同業者の仕業だろう、と思われる 事件はニュースでいくつも見てきた。 そういった嗅覚、というのだろうか…… 何となく、同業者の仕業だと思う事件が いくつもあった。 中には失敗して捕まるやつもいたし、 罪の意識から自らを殺めてしまい、 解決できない未解決事件として 動画サイトなどに情報などが流れている。 この世界に踏み外す前に、足を洗うには どうするべきなのか……? 裏社会を下手に知ってしまったがための 身を守る術は身につけては来なかった。 ただ、いくらそういった事件が報道されても 心が動かされることは、1度もなかったのも 事実だった。 「……冷たい人間になったもんだな……」 1人ごちる。静かな部屋にその言葉は 消えていった。

ともだちにシェアしよう!