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クリミナルアクト 2 須上健登
「……は?……ぼ……僕がですか?」
突然の上司からの呼び出しに、
キョドった人物を演じる。
というのも、突然の海外出張を
命じられたからだ。
特に海外事業部にいる訳でもなく、
企画部でもなく、
国内事業の営業補佐部門で書類を
作っているだけの自分に、
なぜ白羽の矢が立ったのか、が
全くわからなかった。
同じ部署の人間も首を傾げたり、
キョトンとしていたり
『なんであいつが?』という声が聞こえた。
全くもって、理解が出来ないのは健登本人だ。
しかも呼ばれたのはイタリア……
旅行に行くには良いところだろうが……
「須上も知ってると思うが、
うちのスポンサー様の一つである企業が
イタリアに本社のある企業でな。
そこの若社長からのご指名だ。
どこで知り合ったんだ?」
「……い、いえ、社長は存じ上げませんし、
イ……イタ……イタリア語も話せません……」
刺すような視線の中で、コメカミを押さえる。
――本当に目立ちたくないのに、なんなんだ。 その社長とやらも、どこで何を見たんだか……
抑えられなくなり、喫煙所に駆け込んだ。
「あれ?須上さん?須上さんってタバコ
吸いましたっけ?」
先に来ていた海外事業部の片野から
声をかけられる。
「会社で吸うのは初めてですよ。
あっ、片野さんって、海外事業部ですよね?
イタリアのスポンサーの社長って
どんな方だか、ご存知です?」
「……あ〜……サルヴィオ・ジョルダーノか……
見た目は日本人とそんなに変わらないけど、
かなりのやり手の若社長さまだよ。」
海外事業部としても、仕事がしづらい相手だという。
わざと伸ばしている髪をかきあげ、
タバコのフィルターを噛み締めてしまう。
「須上さん、その方がイケメンじゃないですか。なんで顔を隠すような髪型をしてるんです?」
――しまった……イラついた時の癖が出てしまった。
短くなったタバコを消し、新しいタバコに
火をつける。
出来るだけ敵の情報を仕入れておいた方が
良いと思ったのだが……
「あまり表に出てこないんだよ。
なんでそんなにジョルダーノを知りたいんだい?」
事情を話すと、片野も驚いた様子だった。
「なんで、うちじゃなく、営業補佐事務局の
須上さん?しかも、国内の補佐でしたよね?
なんの用事で?」
「そこも曖昧だから悩んでるんですよ。
イタリア語なんて話せませんし、異国の地で
僕は何をさせられるんですかね…?」
海外事業部でも、持ってない情報を
どこから引き出すか……
総務や人事では話にならないだろう。
交通費や滞在費は全てジョルダーノ持ちだと
言うのだから、会社にとっての痛手はない。
いてもいなくても仕事は振り分けられるし、
スポンサー様のために行ってこい、
との命令だった。
期限は1ヶ月。なかなかのロングステイだ。
その間にイタリア語を少しでもマスター
しなければならないだろう。
荷造りなども憂鬱だったが、今まで海外に
流した子達は、荷造りどころか、
お気に入りのおもちゃひとつ持たせずに、
渡航させてしまったんだ。
これは、きっと罰が当たったんだろう。
――足を洗うチャンスかもしれない……
そんな甘い考えがふと頭をよぎる。
――都合良すぎるか。帰国したら、
きっと連絡が……
イタリアにいると言ったら、イタリアでも
仕事をさせられるかもしれないが、
勝手の分からない国で、そんなことも
出来るはずもない。
帰宅後……
深いため息と共に、トランクに荷物を
詰め込んだ。
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