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コールドケース 1 須上 健登

「……久しぶりケント。僕のこと覚えてる?」 落ち着いた声の主は170cmの健登より15cmは 背が高いだろうか……本当に若い…… 空港で迎えの人間を待っていた時の事だった。 三つ揃えの高級そうなスーツを着た 長身のサングラスの男に声をかけられた。 日本語でそう語りかけられて顔を上げると 1人が青年が立っていた。 まだ年若く、サングラスを外したその顔には まだ、幼さが残っている、その顔には 面影が強く残っていた…… 「……おまえ……ガクトか?」 「ご名答。なんでそんな顔を隠すような 髪型してんの?せっかくの男前が台無し。 本当に初めて会った時のケントは カッコよくて、惚れてしまうほどなのに……」 すっと『真田岳人』の手が 頬を撫でてから、その僕のメガネを外す。 「なんだ、伊達メガネか……」 クスッと嗤うと、前髪をグッと掴まれて 痛いほどに引っ張られる。 「ほら、やっぱりいい男」 ニヤリと嗤う岳人は、どこかドス黒い気を 纏っていた。 あまりの痛みについ言葉が 素の自分に戻ってしまう 「……痛てぇよ……その手を離せ。 オレはもう、33のおっさんだよ。 まだおまえは21だろ? こんなことするなんて復讐か?」 「とんでもない、僕はケントのおかげで 今ここにいるんだよ? 感謝以外に何があるのかな? あのまま日本の家庭で育ってたら、 こんな教育は受けられなかっただろうね。 改めて自己紹介するよ。今の僕の名前は 今回の取引相手でもある 『サルヴィオ・ジョルダーノ』 貴方を呼び寄せたクライアントだ。」 他国の言葉で話すふたりに護衛の人物は 警戒心丸出しで、こちらを睨んでいる。 SS(シークレットサービス)にしても、 少々気配がおかしい。 「……オレはイタリア語なんて 話せねぇからな?」 前髪を掴まれたまま、岳人を睨みつける。 本来なら、大事なクライアント兼 スポンサー様に、そんな態度を 取れる立場ではない。 「僕が通訳になるから問題ないよ? それに、ケントには、イタリア語なんて 必要ない仕事を別に用意してるから、 なんの問題もないし」 愉しそうに嗤う岳人……こと サルヴィオに背筋が凍る。 いったい、目の前の男は本当に誰なんだ? あの岳人が、こんなふうに嗤う 子供だったのだろうか? 無垢な顔の岳人しか知らない健登にとって、 目の前の人間があの 『真田岳人』 だとは思えない。 すでにこちら側の 『サルヴィオ・ジョルダーノ』は 明らかにすでに染まりきっている。 SSを見る限り、通常の仕事をしているとは とてもじゃないが思えない。 この国では『上級国民』の類いなのだろうが、 日本人から見たら、どうみてもマフィアだ。 案内された黒塗りのリムジンを見て、 後部座席は外から見えないような しっかりとしたスモークが貼られている。 内側からも見れるのか疑問なほどだ。 SSに勧められるままにそのリムジンへ 案内されるが、 『はい、そうですか』 と乗れるほどの生活はしてきていない。 「早く乗ってくれないかな?ケント?」 後ろからあの幼い頃の少年の岳人ではなく、 大人の色気をまとった声が落ちてくる。 「俺は仕事できたんだ。こんな高級車に 乗れるか!!交渉場所はどこだ? そこまではタクシーで向かう」 ニヤリと目を細めて嗤う岳人は健登の 顎に手をかけて自分の方に向かせる。 その眸同士がぶつかる。 「交渉場所はこの車の中だよ?」 と言い放った。 その眸に何故かゾッとするものを感じた。 逃げ場をなくしたオレは、渋々、リムジンに 乗り込むしか選択肢をなくしていた。

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