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クリミルアクト ♾ サルヴィオ・ジョルダーノ 1
「なに、大したことじゃないさ。
ケントにしてもらう仕事はとても簡単な事だ」
新たにシャンパンが注がれるのを見ながら、
ケントのグラスも空けるように促す。
そのまま一気に呷り、グラスを空にする。
僕はお酒には強いが、ケントは
弱いことも知っている。
シャンパンは、飲み口が良い分、
回るのが少し遅れてやってくる。
普段、酒を口にしないケントがそれを
知っているかどうかは謎だが、
同じペースで飲ませ、2瓶を軽く開けさせる。
ケントの中では今後、
特に犯罪に手を染めるわけでは
ないことがわかると、ホッとしたのと同時に、
普通の生活に戻れる安堵感が胸の中に
広がっているようだ。
その仕事さえこなしてしまえば、
裏の仕事から足を洗っても
身の危険が無くなるというのは
彼にとって、とても魅力的だろう。
「……で?どんなころをすればいいんだ?」
すでにに呂律が回らなくなった
口調で尋ねてくる。
それがこちらの思うつぼだとは
気づかずに……
「僕のイロになってもらう。な?簡単だろ?」
「……イ……ロ……?」
その言葉に一気に酔いが冷めた様子だ。
だが、簡単にアルコールが抜けた訳では無い。
酔いは間違いなくこれから強くケントを
じわじわと追い詰めていくだろう。
「そう。日本語では情人というのかな?」
――いや、日本語でもそっちの業界の人は
『イロ』と言いますが……?
「いや、待て待て待て待て!!俺は男だぞ?」
「知ってるよ?1回だけだけど一緒に
風呂も入ったじゃん?
その時からドキドキだったんだよ。
大きくなったらケントを
僕のものにするって決めてた。
こっちに来てからも、誰に対しても
あのドキドキは味わえないんだよ。
でも、空港でケントを見つけた時、
あの時の高揚感は甦ってきたんだ。」
「……オレは出張でこっちに来てるんだよな?
で、任される仕事がそれだと言うのか?」
「イヤだなぁ、何で呼ばれたと思ってんの?
これから軟禁する相手を簡単に日本に帰すわけないでしょ?ケントがこっちに来たからには。
もしケントが戻ったらあの会社のスポンサーでいる意味がない…言ってる意味はわかるよね?
ケントの返答次第で、生かすも殺すも出来る、
ということだよ?きっと何万人ものリストラが
行われたり、違う意味でケントは命を狙われる
ことになるかもね……で、どうする?
ケントのアパートも処分する手筈は
整えてる。必要そうなものだけ
こっちに運んでもらうから安心して?
表向きは僕の秘書として動いてもらうからね」
ケントは青ざめて俯いている。
その姿にすらゾクゾクする。
退路を絶たれた人間ほど魅力的なものは無い。
あの日、僕を売り渡した時には、
すぐにケントに会えると思っていた。
追ってきてくれると……
船で数日間かけて連れてこられた先は
イタリアだった。
イタリアンマフィアの後継者候補として、
あらゆる英才教育を受けた。
それでも日本語を忘れずにいたのは
ケントに会った時にきちんと会話が
出来るようにしておく為だ。
幸いにもイタリア語教師は日本人だった。
授業以外は日本語をおしえてもらっていた。
僕の他にも次から次へと色々な国から
候補者が送り込まれてきた。が、挫折する者、
狂ってどこかへ連れ去られてしまう者、
彼らのその後を知るものは誰もいない。
僕の心の支えとなったのは
『ケント』の存在だった。
サルヴィオの名前をもらった時から
彼の調査を始めた。
そして、彼がどんな生活をしているか、
どんな仕事をしているのか、まだ、
あの仕事をしているのか……
最近は目立ってはしていないようだが、
売られた子供の数はそれなりに多い。
けれど、1晩を共にしたのは
自分一人だけだった。
その報告書を読みながら、ゾクゾクと背中に
はしるものがあった。
ますます自分のものにしたい。
あの時の記憶が蘇る。
男の自分から見ても、整った顔立ち、
きめ細やかな肌、優しい笑顔……
父と違い体毛の薄い手足……
これまで、どんな女を与えられて抱いても、
幼き日に感じた高揚感は得られなかった。
ならば男なら?と思って
部下の華奢そうなのを脱がしてみたが、
気持ち悪いだけだった。
ケントだけが特別なのだ。
青ざめて俯いていたケントだっだが、
徐々に酔いの回ってくケントを押し倒すのは
とても簡単な事だった。
本人は押し倒されたことにすら気づいて
いないようだが……
残ったシャンパンで錠剤を口移しで飲ませた
これは媚薬だ。どんな嫌がるAV女優も
その気にさせる、と言われているものだ。
違法なものでは無い。
これから自分の腕の中で
どんな痴態を晒してくれるのか?
考えただけで、ゾクゾクした。
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