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クリミナルアクト ♾ サルヴィオ・ジョルダーノ 2

ケントが好きだ。出会った瞬間からの 一目惚れだった。 優しい声で声をかけられ、 僕はホイホイとついて行った。 今日はホテルに泊まるよ?と言われ、 幼いが故に一緒に風呂に入ろう、と言われ 裸になるとその艶やかな肌にドキドキした。 その時の高揚感は未だに覚えている。 「ケントは一緒に行かないの? また、会えるよね?」 その時に「また会おう」と言われた言葉は 不安だった僕の心を安心させるための 嘘をついたのだと気付くまで、それほどの 時間は要さなかった。 案の定、その後、ケントからの連絡が来ることは無く『英才教育』をひたすら受けさせられ、 ライバルを如何に蹴落とすか、という 教育をひたすら受けさせられた。 言葉すらわからない国での不安は大きく、 支えは日本人の外国語教師と 『ケント』への思いだけだった。 外国語教師は色んな国の言葉を教えてくれた。 自分で言うのもなんだが、僕は駆け引きに長けていた。多国語を話せる上に外見が相手を油断させる。 日本人というのは実年齢よりも若く見られがちなのもあるが、実際に僕が若いからだ。 けれど、誰より冷酷に相手を蹴落とすことが 出来た。生き延びるための術だった。 時間をかけて、ある程度の力を手に入れた。 これでケントを遠慮なく迎えられる。 だから、どうしても手中に収めたかった。 18歳を過ぎた頃から、女は与えられたし、 寄ってきた。その度に食い散らかしてきた。 特定の相手は作らなかったのは、 『ケント』以上に興奮を覚える人間が いなかったからだ。 だからと言って、時の流れは残酷だ。 あれから15年の歳月が流れている。 名指しで呼び出したのはいいものの、 中年にさしかかろうとしてる、男なんて、 絶対ムリだろう……と思うも、現れた彼は…… 再会した『ケント』は元々の整った顔を 隠すような髪型と、眼鏡、野暮ったいスーツに スタイルのいい細身の身体を隠している。 それには瞬間『イラッ』とはしたが、 あの顔は裏の仕事には確かに役に立つ。 目立たないように生活している、とは 報告書にあったが、想像以上だった。 つい、いつもの癖で前髪を掴み上げて しまったが、15年前と変わらない 優男の顔がそこにはあった。 『この男が欲しい』 瞬時に脳が判断した。 うちの組織は跡継ぎは襲名制ではない。 有能な人材を育てて振るいにかける。 子供は必要ないから、誰を選ぼうが、 組織には影響ないのだ。 表向きは普通の企業だが、 岳人こと僕、サルヴィオの本当の仕事は イタリアンマフィアの一つのトップだ。 そこで『英才教育』を受ける、 ということがどういうことか…… 組織としてもトップクラスということだ。 サルヴィオのオンナになりたい、 情人になりたい、妻になりたい、 そんな野望を女も少なくはないだろう。 ただ、その決め手になる手段、才能を持つ女はいなかった。どんなに高嶺の花だと言われてきた女でもそうだった。 サルヴィオの好みの女ではなかった。 ドン・ジョルダーノと呼ばれるようになってからも、恋い焦がれる相手は1人だけだった。 若干20歳にしてマフィアの首領(ドン)となった。 ボスは隠居の身となったが、全てを牛耳って いるのはボスだ。その下に属するのが、 サルヴィオ……ジョルダーノの名を襲名した。 ジョルダーノ家の養子に入った。 そして今の地位に就いている。 ケントの仕事を調べて、その会社と繋がりを 持った。取引きをし、株も買い徐々に買い占めていく。ケントさえ手に入れば取引はしても 株は手放してもいい、と思っている。 乗っとるほどの価値のある会社とは判断してない。こちらに利益を産むような会社だとは思えなかった。だからこそ、中途半端な株主となっていた。 『ケント』さえ手に入れば、それでいいのだ。

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