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コールドケース ♾ ケント 2
この甘いお香には何が入っているのだろうか?
キスを甘受けしながら、抵抗する気に全くならない。むしろ、何故、首に手を回してまでキスを強請るような真似をしてるのかさえ、自分の理解が追いついていない。
「ふぁ……んぅ……ふっ……」
キスの角度を変える度に漏れる甘い声……
自分の声だというのに、その声は遠くから聞こえるような感覚だ。いやに官能を擽るようなキスとペニスに絡みついた長い指が、その官能を膨張させる。
「……あっ、あぁん……はっ、ふぅん……」
唇が離れ心地いい舌が首筋を這いながら、胸の尖りを固く凝 らせる。
乳暈からジワジワと舌がそこを転がす度に、下肢と繋がっているような感覚になり、背筋を愉悦が駆け上がる。
「……ガ……クト……」
キスの合間に名前を呼ぶ……が、
「もう、その名前は捨てた。これからはサルヴィオだ。ケントも須上の日本名は捨てて?これからは僕と一緒に気持ちいいことだけして生きていこ?」
甘い誘惑につい流されてしまいそうになる。
どうせ、日本に戻っても犯罪者として隠れて
生きていかなければならない。
完済はしたものの、両親の残した多額の借金の返済をケント1人に押し付けて逃げた親になどもう、未練もない。
恋人もいない……
逃げたとしても、日本領事館に駆け込むしかない。その間に捕まって、戻されるか、殺されるのか……?そもそも土地勘がない。
日本に帰れたとしても、サルヴィオは会社を潰しにかかるだろう。だからもう、会社にも戻れないし、帰る家もない。
用意周到に待たれていたことを考えると、
戸籍すらなくなってるかもしれない……
空港からどこに連れてこられたのかさえ、今はわからないのだ。スモークガラスの内側から外は見えたが、途中から酔いが回り、媚薬を使っての初めて“メス”となってセックスをしていたのだ。周りなど見ていない。
長い時間、快楽に溺れて、ただ、ただ、物理的にイカされないもどかしさに悶えていた。
あれだけ数時間前まで反発していたのに、全てがどうでもいい。今が気持ち良ければ、それでいい……そんな気さえしてくる。
快楽に溺れて全て忘れて、目の前の男だけを見てればいい……甘い誘惑だ。
けれど、男として矜恃 を全て捨てて……?
サルヴィオのペットになって、“メス”になって性の捌け口として生きていくのか……?
どんなにセックスしたって、ケントには妊娠は出来ないし、子供も産めない。
そんな自分に何が出来るのか?
歳を重ねれば、老いていくだけの自分が、この見知らぬ土地で放置されるくらいなら、いっその事、その命を終わらせて欲しい……
「……はっ……あぁん……なぁ……ガクト……んぅ……ガクトと呼ぶのはこれが最後だ……」
「なに?」
愛撫の手を止めて、サルヴィオがケントを見る
「……もし……オレを捨てる時には……オレを殺してくれ……最初で最後のお願いだ……」
上がる息の隙間にそう伝えた。
「ケント……僕が愛を注いでるのに、そんなことを考えていたの?」
なんの感情も見えない言葉に図星なのだと思い知る。やはり、自分はサルヴィオにとってオモチャくらいの存在なのだ、と。
これは自分に対する報いだ。
法で裁かれることを恐れ、隠れて生きてきた。
そして目の前にいるのは自分が一番最初に犯罪に手を染めた相手だ。
たくさんの人を悲しませた。攫った子供も、その家族も……どうしてるか、なども知ることも無く、平々凡々と生きてきた。それに胸を痛めることもなかった自分。
目の前のガクトが生きていたことには、多少の嬉しさはあった。たが、他の子がどうしてるのかなどと自分が知るよしもない。
35人……決して少ない数ではない。
学校なら1クラス構成できる人数だ。そのうちの1人が生きて、目の前にいる……
もうそれだけで、少し救われた気がした。
もう、元の生活に戻れないなら……
目の前で、自分を組み敷いして男は少し悲しそうな表情 をしていた。
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