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コールドケース ♾ ケント 4

――……………… 静かな寝息が聞こえてくる…… 暖かい……でも重たい……なんだ?これは…… 覚醒が遅いが、ゆっくりと瞼が持ち上がると、目の前に顔が……びっくりして声を上げそうになったが、懐かしい寝顔がそこにはあった。 あの日見た寝顔が、そのまま成長した岳人(ガクト)…… いや、もう、この男は『岳人』ではなくサルヴィオ・ジョルダーノ……そう呼ばれる人物だ。 ――もう、岳人とは呼ばない…… そう告げた。 本人もそれを望んでいる。オレは彼に抱き込まれるような形で眠っていたようだ。イタリアに着いてからの記憶はこの顔しかない。まだ、 2日と経っていないだろうが、軟禁状態になるのは間違いないだろう。ただ、それが一番の身の安全であることは間違いないことだと自覚している。 出会った頃とは逆の立場になるとは思いもしなかった。一回りも年齢が違うというのに、15年という歳月が全てを逆転させた。 ――因果応報 そんな言葉が頭を()ぎる。 それだけのことをしてきた自覚はある。自分の身に降ってきたとしても文句など言えた立場ではない。幸いにして、両親とは音信不通であり今、生きてるのかそうでないのかすらも知らない。自分が居なくなったところで心配する人間はいない。けれど…… 会社にはなんて報告をしよう……?失踪か? 会社にとって損害さえ出さなければ、オレが失踪したとしてもなんの被害もないだろう…… そっと隙間から手を出しサルヴィオの頬に手を当てる。この男の両親はさぞかし美男美女だったのだろう、と思う。あの頃から変わらぬ愛くるしい顔立ちは両親からもらったものだろう。 35人……それぞれの親の顔など記憶していない もう、既に自分の両親の顔さえもあやふやなくらいだ。他人の親……さらに言えば、誘拐した子供の親の顔など記憶していたら、あんな仕事なんて出来やしない。 そっと身動ぎ、その口唇にそっと自分の口唇を重ねる顔を引くと、その寝顔の口角が上がっている。くっそ……狸寝入りか…… 「……いつから起きてた?」 パチッと眸を開けて優しく微笑む。この状況下でそれは反則だ……つい、自分の痴態を思い出してしまう…… 頬が紅潮していくのが分かる。 「その前におはよう、だよ?ケント。朝ではないけどね」 この状況下でおはよう、なんていうのは、さすがに恥ずかしすぎる。 「僕のこと好きになってくれた?」 「……今更だ……好き勝手派手にやってくれたな。おかげでオレは……」 「……なに?」 「……普通じゃ満足出来なくなった……かもな……」 ため息混じりにそう呟く。 そのままの状態で今度は嬉しそうに微笑むサルヴィオもどうかしている、と思う。 同性で、会社を営んでいるのに跡継ぎを必要としない……少し考えればわかることだったが、その時のオレにはそこまでの考えは浮かばなかった。何故、誘拐されたはずの少年が、そこまでのか、ということを…… そして、毎晩のように求められることになることも…… 甘い香りが漂うこの部屋で、毎晩のように夜伽(よとぎ)をする……甘やかされて、喘がされて、快楽に溺れている日々を過ごす。 その理由さえわからず、肉欲に溺れていった。

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