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クリミナルアクト ♾ サルヴィオ 6

携帯の着信履歴がどんどんと増えていくが、今、この携帯電話の持ち主の手元に携帯電話がある訳では無い。 ほんのイタズラ心で携帯をとる。日本語で怒鳴るように話しかけてきた相手にイタリア語で返すと、相手は怯んでいるようで、英語で 『Wait(待て)』と言ってきた。 ――ケントの上司か……人事は最悪だな…… 海外事業部の片野という人物がイタリア語で電話を替わった旨を伝えてくる。 『初めまして。私はサルヴィオ・ジョルダーノと申します。お呼びした御社の須上健登さんのことで、お話したいことがありまして…』 『サルヴィオ・ジョルダーノ CEO ご本人様で?』 『えぇ、そうです。』 『何故、当社の須上の携帯電話に貴方が?』 『本人(カレ)が出れる状態では無いからです。』 『須上はどうしてるのでしょうか?』 『……元気にはしてますが、話せる状態にはありません。なので私が対応させていただきます。彼が持ってきた書類の件と、御社との取引きで話し合っている件に追加で、須上健登をこちらに譲渡していただけないでしょうか?』 「は?」 突然の言葉に日本語になってしまった片野だったが、直ぐに言葉を戻し 『仰ってる意味が……よくわからないのですが……?何故、須上を?』 『私が彼を欲しい、と思ったからですよ。なので次回、契約書を交わす際には、その譲渡状も付け加えて頂きたいと。』 そう言うと 『私の一存では決めかねます。須上はモノではありませんので、譲渡、というのは了承致し兼ねます……出向という形では対応は可能だと思いますが……ただ、少々お時間をいただけないでしょうか……須上本人は……』 『了承してますよ。と言うより、彼は私には逆らえませんから。譲渡が無理なら退職届でも、持ってきて下さい。彼は渡しません。』 『それは……どういう意味で……?』 『それは契約締結時に本人に聞いてください。ただ、彼は日本にはもう帰りませんよ。私も帰す気はありませんので、ご了承ください。』 『けれど、須上には会社への報告義務があります。一度日本に戻ってくるなり、せめて電話で通話することは出来ないでしょうか?』 『今はまだ、ムリです。彼は当社の重要機密を知ってしまいました。口外されては困るので、私が管理させていただきます。』 『CEO自ら?』 『えぇ。漏れては困りますので……今は私の部屋のベッドで眠ってますよ?』 今も出社してるわけではない。抱き潰したケントは膝に頭を乗せて眠っている。今はベッドメイクの最中だ。その言葉遊びが楽しくてついつい調子に乗ってしまった。 『失礼ですが、貴方ほどの方が何故、当社の須上をご指名され、そんなことになっているのでしょうか……?』 『何故でしょうね?それは私からお答えすることは出来ません。人は生きていれば、秘密のひとつやふたつあるものです。それを漏らす訳には行きませんので……では、こちらの要件はお伝えしましたので、契約の時にお待ちしております。ミスターカタノ』 クスクスと笑いながら言い直す。 「いや、片野さん、お待ちしておりますよ。」 「……え?ミスター?え?え?日本語?」 そのまま携帯タップして通話を切断し、電源を落とした。 「全く……面白いね。日本人は……ケント以外の日本人なんか大嫌いだ……」 イタリア語を教えてくれた講師も嫌いではなかったが……ケントに対する気持ちとは違う。 その後、日本のケントが勤めていた会社では、須上健登はイタリアに旅立ったあとに日本のアパートを引き払い、家電類の荷物がほぼ処分されたこと、ケントの退職願を郵送したことにより、彼の携帯電話が解約されたことを知る。 強引なやり方には、片野から何度も怒りの電話があったらしいが、繋いでもらうほどでもない電話だと断っている。 どうせ、あと数日すれば、片野はイタリアに来ることになるのだから。

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