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クリミナルアクト ♾ サルヴィオ 8

「片野さん、貴方は実に冷静でいらっしゃるようですね。」 「短い付き合いですが、須上とは面識がありましたので。この出張の前に貴方の事を聞かれました。貴方の事を全く知らなかった須上が、何故、イタリアに来て、貴方の元で働くことになったのか、疑問でなりません。」 ――なかなかの曲者だ…… 僕は彼とのやりとりで遊ぶことにした。 「時田さんには、少し席を外してもらいましょうか……貴方を信頼しての話をしましょう」 時田は別の部屋に連れて行かれる。 「安心してください。うちの秘書がお相手させていただきますので。」 含みのある言い方で、別の部屋に女性秘書に連れていかれる。 「……さて、片野さん、この件は口外無用としていただきたいのですが……ご了承いただけますか?万が一、漏れた場合は命の保障はしかねます。それでも、お聞きになりますか?」 片野は真剣な表情で頷く。 「では率直に伺います。貴方は『真田岳人( さなだ がくと )』という人物はご存知ですか?」 「……はい。現在も未解決になっている少年の行方不明事件です。」 「僕の以前の名前はその『真田岳人』です。けれど、日本に戻る気はありません。」 ゆるゆると片野の目が見開かれていく…… 「そして、その時に関わっていたのが、彼…… 須上健登です。彼はその後も事業に失敗して行方不明になった親の借金返済のためにそういった事件をいくつも起こしています。 全てが彼の犯行ではありませんが、日本に帰っても犯罪者として罪を問われることになるでしょう…… 彼はその裏の仕事から足を洗いたいと考えています。けれど、その前に消される可能性の方が高いのです。 彼の身の安全を約束をして僕のところに残ることを彼は決めました。」 最悪の考えが当たっていたことに、さすがの片野も動揺をする。 『貴方を信頼しての話です。このことは墓場まで持っていってくださいね?』 急にイタリア語に言語を戻し、ニッコリ微笑むサルヴィオの眸は笑っていない。万が一にも口外しようものなら本気で消されてしまうだろう。 イタリアという土地柄、マフィアとの繋がりがないとは言えない。だからこそ、この男がそう言うならば、それに従うしかないだろう。 『それに僕は彼が一目惚れの初恋の相手でしてね。別に女がダメなわけではないのですが、これだけ綺麗な顔をしてるんです。今まで恋人も作ってこなかったわけがわかりますか?それは彼の過去に繋がります。』 片野は表情を硬くして、返答に困っている様子だった。程なくして口を開いた彼は 『……なるほど……貴方が日本語を忘れなかった理由もそこにあるのですね?須上を呼び寄せた理由も……』 重たそうに語られる言葉。果たしてこの男に話したことが、どう繋がっていくのかが楽しみだ。 僕にとっては言葉遊びの一環でしかないが、ケントを売り渡すような真似をしたら、消えてもらう。それは確定事項だ。あの会社にも忍び込ませてる人材(アサシン)(暗殺者)はいる。 連れてきた相棒は口が軽そうだったので、席を外してもらっただけのこと。 『それを飲んでいただけるなら、喜んで契約をしましょう。』 『……あの……時田は……』 『私の秘書とのセックスが終われば戻ってくるでしょう』 『……え?』 場にそぐわない言葉にフリーズした。 そんな片野を見て、クスクスと笑ってしまった

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