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Considerazione(考察) 片野 2
――須上健登が顔を隠して地味に生活していたのにはそんな理由があったのか……
片野はストンと腑に落ちた感じがした。
最悪の考えが当たっていたことに、さすがに動揺を隠すことが出来ずにいた。
『貴方を信頼しての話です。このことは墓場まで持っていってくださいね?』
急にイタリア語に言語を戻し、ニッコリ微笑むが、サルヴィオの眸は笑っていない。本気でゾッとした。万が一にも口外しようものなら本気で消されてしまうだろう。
イタリアという土地柄、マフィアとの繋がりがないとは言えない。だからこそ、この男がそう言うならば、それに従うしかないだろう。
『それに僕は彼が一目惚れの初恋の相手でしてね。別に女がダメなわけではないのですが、これだけ綺麗な顔をしてるんです。今まで恋人も作ってこなかったわけがわかりますか?それは彼の過去に繋がります。』
隣の椅子に座らされてる須上はまだ、その視点が定まっていない。サルヴィオが須上の頬を撫でると、ピクっと反応を示す。キスだけでこんな放心状態になるものなのだろうか……?
正直に言えば、元同僚のこんな姿を見たくはなかった。年下の男に翻弄されてる姿など……
段々と自分の表情が硬くなっていくのが分かる……返答に困ってしまった……が、どうにか口を開いた。
『……なるほど……貴方が日本語を忘れなかった理由もそこにあるのですね?須上を呼び寄せた理由も……』
重たくのしかかる言葉……自分には家庭もある。須上1人のことで人生を台無しにするような真似は出来ない。
『それを飲んでいただけるなら、喜んで契約をしましょう。』
ニッコリと微笑むサルヴィオ……何を考えているのか、全く掴めない男だ。
時田を連れてきたのには理由があった。まだ、新人の域を出ない時田に、海外での大口の取引の契約を見せて学ばせようという意図が……
だから尋ねた。
『……あの……時田は……』
『私の秘書とのセックスが終われば戻ってくるでしょう』
目の前の男は、微笑みながらなんでもないことのようにサラッと何を言った?
『……え?』
場にそぐわない言葉にフリーズした。
『ケントに欲情されても困るのでね。ノーマルに戻してさしあげてるだけですよ?』
――完全に遊ばれてる……
その言葉でやっと気がついた。こちらとのやり取りなど、目の前の男にとってはお遊びの一環なのだと……先程の言葉も真実かどうかもわからない。ただ、辻褄は合うことだけは確かだ。
『あの……先程の話は真実なのでしょうか?』
『都市伝説レベルの話ですね。ちょうど年が近そうな人物を選んでみました。ケントが犯罪なんてできる器だと、本気でお思いですか?』
『先程、須上は自分の罪だ、と言いました。それの意味するところが気になってはいますが、日本での生活を見ていた限りで言えば、須上は犯罪を犯すようなタイプではありませんでした
……ジョルダーノ氏は、本当はどちらで須上に会ったのでしょうか?』
また、ニッコリと笑う。試されてる気がしてならない。幼き日の写真しか見たことがない、
『真田岳人』と、この男が本当に他人なのか、同一人物なのか……
日本人顔のこの男が、本当に日本人だ、と言えばそう思えるし、違うといえば違うのだろう。
うっすらと記憶している『成長したらこんな顔』であろうモンタージュとは少し違う。
微笑みを絶やさないこの男の笑っていない眸が本当に全く読めない。
ただ、ひとつ言えることは須上に異様な執着していることだけは確かだ。
須上がサルヴィオの言いなりになっていることも気になる。けれど、サルヴィオが本当に『真田岳人』であるのか、その他の人物であるのか、見当がつかない。
『同僚思いなのですね。須上氏とはこちらで会ったのが初めてですよ。御社の社員リストを見て興味を持っただけです。
彼は何か勘違いをしてるようですね。15年前に何があったのかは知りませんが、なにか悪さをしたのかもしれませんね。ただ、彼はイタリアの生活が気に入っただけでしょう。』
本音を口にはしないのか……信頼して、という言葉は彼にとっては言葉遊びの1つに過ぎないのだろう。こちらはオモチャでしかないのだ。
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