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クリミナルアクト ♾ サルヴィオ 9

――どうやら彼は遊ばれてることには気づいたらしいが、言葉が真実か否かはわかってないらしい。けれど、なかなか感がいい。 頭のいい人間は嫌いじゃない。 僕はフッと笑う。もうそろそろ日本では僕の身代わりの白骨遺体が発見されるはずだ。僕の戸籍は日本から抹消された上で、ケントの戸籍はこちらに移す。僕はもう、イタリアに戸籍があるから、日本の戸籍はいらない。 ケントの戸籍は生きてることが、片野たちにバレてる今、死亡させるわけにはいかない。イタリアへの永住権は手続きが済んでいる。 伊達にイタリアでもトップクラスのマフィアの若頭をしてる訳では無い。 トップクラス……そう。上には上がいるのだ。 ボッケリーニファミリー……かなり大きな組織だ。ボスのシュナウザーには愛人をたくさん抱え、その愛人それぞれに子供がいる。子供のほとんどは構成員になっているが、中には 数人異色の子供もいた。 有名人で言えば一人は世界的な作曲家兼指揮者(マエストロ)の『アルノルド・シュレイカー』だ。 彼はゲイとして有名だが、手の速さでも有名な金髪緑眼のイケメンだ。最近は特殊アルビノの青年に入れ込んでるらしいが、そこからは男遊びはピッタリ収まったという話だ。 お相手の男性も、金髪紫眼の、珍しいハーフの青年だという。アメリカ生まれで、ドイツ人の母親に日本人の父親を持つ青年だという。その場合、色が濃い方を引き継ぐはずなのに、色素のうすい肌に母親とは違ったタイプの金髪に、紫色の眸……わずか12歳で大学に入学し、16歳で大学を卒業し、母の死をきっかけに日本に渡っている。アメリカでは物理学者の顔をもち、日本ではピアニストの顔を持つ。彼は天才なのだろう。 彼らが本拠地としているウィーンに行って1度はコンサートにケントを連れ出すのも良いだろう。アルノルドはマフィアを好んではいない。1観客者としてなら見るのも悪くないだろう。 時田が疲れた顔で戻ってきたのは、1時間も経過した頃だった。 「……何してたんだ?」 「秘書さんにお相手してもらってました……」 「……お相手……って?」 「……その……えっと……」 「そこのCEOはセックスと言っていたが、そのまさかか?」 と聞くと、顔を赤らめて頷く。 ――全く……イタリアまで何しに来たんだか…… 「……全ての取引がこうだと思うなよ?」 と告げてから契約書に目を通してもらい、サインをしてもらう。 時田は後で説教だ。 『……先ほどの話はどうぞご内密に』 感情の見えない目でそう告げると、 『私にも家庭がありますので、リスクはなるべく避けたい、というのが本音です。』 ――ふぅん……家族ね…… 僕には恵まれなかったものだ。壊したい、と思う反面、反撃されるのも癪なので黙っておく。 けれど、先方が先手を打ってきたなら、応戦する準備は整っている。 ――これからが見ものかな…… 彼が日本でどう、行動するのか……きちんと話さずにいられるのかどうか…… 白骨死体が出てきたら嘘だと判断するのか? 年季の入っていない遺体にどう思うのだろう? ただ、これは『僕』なのだと決定出来るように手筈は整えてある。『真田岳人』との本当の決別だ。サルヴィオとして生きることを決めた今、ケントを繋ぐ鎖であっても、邪魔な存在でもある。 イタリアには子供の遺体には処分を困ってる場所がある。そこからアジア系の少年を引き取り白骨化させたのだ。 自分はそこに1度も関与したことは無い。好んで子供の生き血を啜る趣味はない。 この隣で愛らしくキスの余韻に浸ってきる男以外に興味がないのだ。 ただ、片野たちが帰国した後に、僕の遺体が出たということがわかれば、片野は疑問の目を向けてくるだろう。僕が逆の立場だったらそうだからだ。 それを問いただしてくるのか、スルーするのかは、彼次第。 ただ、僕はもう、日本人ではない。 それだけのことだった。

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