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Considerazione(考察) 片野 3

「ショルダーノ氏と何を話してたんですか?」 唐突に時田が聞いてくる。興味津々といった口調だったが、そんなことよりも先程飲み込んだ言葉が溢れるように出てくる。 「何をじゃない!!おまえはイタリアまで何しに来たと思ってるんだ。いくら誘われたからって、調子に乗って……相手は大口の取引先なんだぞ?秘書と……なんてとんでもない話だ!!それを理由にキャンセルでもされてみろ、目も当てられないじゃないか……!!」 ジョルダーノとの話はどんな形であれ、時田にも言うべきではない。『墓場まで持っていってくださいね』と言うくらいだ。だからこそわざと話題をそらす。 たとえネットニュースに少年の白骨遺体が出たと書いてあってもだ。さすがにタイミングが良すぎる。いや、悪すぎる……か? ――あんな話をした直後に、そんなに簡単に見つかるものなのか? 話をした時にはもしかしたら見つかっていたのかもしれないが、ニュースになったのは今だ。速報で通知された日本のニュースには、その白骨遺体は15年前に行方不明となった『真田岳人』だろう……と。 携帯を睨みつけていると、時田がそれを見て 「……あ〜……この子亡くなってたんですね〜 生きてるんじゃないかって、少し期待してたんですけどね……」 「どうしてそう思った?」 「ここ最近、若い子の監禁事件とか多いじゃないですか?ストックホルム症候群って言うんですか?犯人と意気投合しちゃう感じ?」 着眼点は悪くないだろう。ただ、1つここで問題になるのは見つかった場所と、野生動物が骨の1部をも、点だ。ボロボロになった当時の服装のままで白骨化…… それに、人を一人囲うにしても、それなりの金がかかるはずだ。衣食住にしたってそうだし、学校に通っていたなら学費もかかる。通わせてなかったにしても、勉強を教えるための資料は必要なはずだ。住居はともかく、これから成長していく子供に衣食の金は必要になる。 働きに出てる間に逃げることも可能だろうし、仮に一人暮らしだとすれば、複数の人が住んでれば、隣人は気づくはずだし、家族の元にいてもそれは同じことだ。 時田にその疑問をぶつけても、わかりません、と理由のない返答が返ってきただけだった。だったらなぜ、生きていると思ったのか……? 誰にも気付かれずに生活をすることは可能なのだろうか……? それにストックホルム症候群になってるのは須上の方だと感じた。 15年の歳月が流れていたとはいえ、腐乱すれば臭いも出る。山林に埋められていたのが雨風に晒されたからといって簡単に出てくるものなのか?それに、山林では根が蔓延(はびこ)っていて、地面を掘るのも一苦労のはず…… 犯人は何日かけてその穴を掘り、彼を埋めたというのだろうか?両親は不仲だったらしいが、子供が行方不明になった後、それぞれの家庭を持ちながら、一緒になって行方を探していた。 ――彼は自分から失踪してそこで息絶えた……? 『15年前の罪』 須上はそう言った。『罪』とはいったいなんなのか……? サルヴィオが『真田岳人』だと言うなら辻褄は合うのだが、最後には否定した。 ――本当にその遺体は『真田岳人』のものなのか? もし違っていても、そうであっても確認する(すべ)はない。 もしもこの遺体がフェイクなのだとしたら、日本にスパイがいてもおかしくはないのだ。 ――もう、この2人のことを追うのはやめよう ……自分の身に危険が迫ることは間違いない……家族にも迷惑をかけられない。 契約書を厳重に保管してイタリアを後にしたのだった。

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