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クリミナルアクト ♾ サルヴィオ 10

彼らが会社を去った後に日本のニュース速報で僕の白骨遺体が出た、とネットニュースで報じられていた。少しタイミングが早かったが、片野を牽制するには十分だったことだろう。 彼らが帰ったあと、秘書やSSは各持ち場に戻って行った。この部屋にはケントと二人きりだ。 「……ケント、愛してるよ……」 キスの時に盛った薬が効きすぎているようだった。片野もキスだけで、こんなになるとは思ってなかっただろうが、それは僕もだった。 ――配分を間違えてしまったな…… クスッと笑ってしまう。放心状態のケントも可愛い、と思ってしまう自分は本当にこの男に骨抜きにされているのだ。 自分を売り飛ばした男に、だ。 この男に会うためだけに、血を吐くような努力を重ねてきた。そして、今の地位を手に入れたのだ。復讐なんて生易しいものじゃない。 この呼び寄せはある意味ギャンブルだった。 この男が、もっと老け込んでいたら……? 大きな伊達メガネに長い前髪に、会社でもオドオドしていて、目立たない存在。生活も決して派手ではなく、セキュリティも甘いとても良いとは言えない環境のアパート。35人もの人身売買をして、高額の収入があったはずなのに、ここ数年は依頼をこなしていない。 贅沢な生活をしてないことに疑問を持ち調べてみると、親が押し付けた多大なる借金の肩代わりとして、大半の金が流れていた。 それでも、完済後もわずかながらに依頼をこなしたのは、足を洗うチャンスを失っていたのだろう。変なところで不器用な男なんだと思った。それでも、地味な生活をしていたのは、 カモフラージュと借金返済の時の生活の癖が抜けなかったのだろう。 出会った頃のケントは自分に似合う髪型や服を知っていた。たとえ、それが安物であっても、さまになる着こなしをしていた。入社までは。 あの入社してから、どんどんと陰キャを演じ、友達を作ることも無く飲み会を断り続け、一人でいることが多くなっていっている。酒の席で自分を晒すのが嫌だったのだろう。 『僕』と『オレ』を使い分けていたようだ。 裏稼業の時には派手に、表家業の時は地味に。 配属された仕事も最初こそ、営業部の第一線にいたが、多く仕事を取ってくるわけでもなく、営業成績は良い方でもはなかったが、それなりの仕事はこなしていた。 その後、本人の希望の移動で補佐の方に回っている。営業のノウハウはわかっているはずなのに、わざと外れていた。 それもケントの戦略だ。 目立つ生活を避ける為に、出来る仕事をこなさない。補佐に回ってからのケントの指示は的確だった。ケントが抱えていた営業連中の成績は軒並み良いのが証拠だ。その後を引き継ぐ補佐連中はさぞかし大変なことだろう。 だが、ケントは退職済で、日本に拠点はもうない。指示を仰ごうにも、僕を通さないと繋がらないのだ。ケントを粗雑に扱ってきたのだ。当然の報いとも言えるだろう。 ケントも馬鹿ではない。本気を出せばかなりの戦力になっていただろう。けれど、それをしてしまうことによって目立ってしまっては本末転倒だと思っていたのだろう。全ては憶測を出ないことだが、そのことが事実か否かは、近い将来わかることだろう。 そして、ケントはその期待を見事に裏切らなかった。その手腕は素晴らしいものだったのだ。

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