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クリミナルアクト ♾ サルヴィオ 11
ケントがイタリアに来て半年がすぎた頃には、読み書きはまだ、曖昧なことが多かったが、言葉を理解するのには十分な月日だった。
『この案件はどう思う?』
とケントに質問をなげかける。読めない字は日本語や英語でこういう意味だと説明をすると納得する姿に見蕩れる。頭をフル回転させてる時の表情が好きだ。元々、アメリカ英語はできるタイプの人間だ。顎に手を当てて考え込む。
『これは避けるべき……とオレは判断するけど、サルヴィオはどう思ってるの?』
『僕も同意見だね。ケントを試したわけじゃないけど、確証が欲しかったんだ。僕が弱みを見せられるのはケントだけだからね。』
僕は微笑みながら、そう告げる。少し頬を染めて赤くなりながらも、表情は崩さない。
『そういえば、ケントの元々の会社、ケントが抜けたことでだいぶ業績が悪化してるみたいだね。特に営業部がボロボロだよ。中でも君が担当していた営業社員が軒並み成績を落としてるよ。ケントがどれだけ会社に貢献してきたか、今になってわかっているんだろうね。』
と、クスクス笑ってしまった。
『オレのおかげ、なんておこがましいことは思わないし、ただ、オレは担当していた後輩に仕事についてアドバイスしていただけだ。』
『……でも、そのノウハウを自分のためには使ってこなかったじゃないか?』
『営業部なんて、数字で人間性を測られる部署なんてオレには向いてなかっただけだよ。』
『でも、ケントは花形より、裏方を選んでる。それには意味があるんでしょ?』
『……その話は、サルヴィオが1番知っていることでしょう?でも、なんで半年前に“過去の自分”を処分したんです?』
『ケントが言ったんじゃないか。僕の両親が僕を探してるって。離婚して別々に家庭を持ちながら、その時ばかり仲のいい夫婦の振りをしている姿に反吐が出そうだったからだよ』
『……ちょっと待て……あの時に置き去りにされてたのは嘘だったわけだ?』
『嘘つきはお互い様だろう?僕はケントに一目惚れしたから、一応、あれでも精一杯のナンパだったんだけど、気づいてなかった?』
健人が目を丸くして
『……ナンパ?……どこまでが本当でどこまでが嘘なのか、わからなくなってきたよ……』
『全部本当だよ?初めて会った時のケントは、今と変わりなく美人だったし、両親の不仲に嫌気がさしていたのは事実で、困らせてやろう、とは思ってたよ。まさか、こんなに長くなるとは思ってなかったけど、これでケリがついて互いにスッキリするだろ?僕なりの最初で最後の親孝行だよ……』
――そう、これ以上は振り回すのは可哀想だ……
それぞれの家庭を持ちながら、仕事や家庭のことをしながら、僕を探す。それがわからないほど僕も子供ではないし、その後の両親の間に生まれた義兄弟達も可哀想だ。
元々、どちらも僕を引き取る気なんてなかったくせに、いなくなったからと悲劇の主人公みたいな態度を取られるのも癪だった。
もし、それで僕が日本に戻ったとして、どちらが僕を引き取るのかを見てみたかったが、そこまで僕も暇ではなかった。出来る時に出来ることをする。それがサルヴィオとしての信念だ。
その信念を作りあげたのもケントがイタリアに来たことによって作られたものだ。
仕事柄何があってもおかしくはない。シビル・ユニオン法にて認められ、ケントは僕の籍に入っている。同性愛者であるもののために認められた法律だ。公私共のパートナーだ。
僕よりもシビアに営業成績の統計を取り、ダメだと思った企業は切り捨てていく。
『……サルヴィオ、元ウチの会社、株を売るなら今だ。今を逃したら不利益が出る。利益を優先するなら今すぐ全部売れ。』
と、これほどにシビアだ。その後、本当に株が大暴落したから、本当にこの男は……
クスクスと笑いが出てしまう。
『本当に僕は貴方が好きでたまらないよ……』
近くに寄り、いつものようにキスをする。この部屋で二人きりの時にはか絶対に欠かさない。本当ならベッドを持ち込みたいくらいだ。
腰を抜かすまでキスを繰り返し、欲情を煽る。そして夜に持ち込むのだ。スレンダーなスーツの前は苦しそうなほどパンパンに膨れ上がっている。軽く撫でるだけで
「あっ……」
と声を上げる。けれど、焦らす為には必要なことだ。いつもより早い時間にそれをしたことには意味がある。僕はフッと微笑んでから
『じゃ、少し落ち着いたら、行こうか?』
恨めしそうに睨む姿も、僕をゾクゾクさせた。
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