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コールドケース ♾ ケント 5
――好きだ、愛してる
――繰り返される言葉――
未だにところ構わず繰り返すサルヴィオはオレをそんなに信頼してないのか?と思うほどだ。
「オレも……」と簡単に応えられるほど若くない。ただ、最中は熱にうかされて何度も言っているらしいが……
「あんなに情熱的に好きっていってくれるのに、セックスの時にしか言ってくれないの?」
ピロートークのように言わないで欲しい……
オレにだって羞恥心はある。サルヴィオよりも12歳も歳上なのに……いや、それ以上に経験値が低いのだ。若気の至りで済む年齢はとうに過ぎた。男として言うのは簡単だろう。
けれど、こっちはネコである以上、我を忘れるほどの快感の中でしか言えない時もある。
情熱的な国で育った、サルヴィオと慎ましやかな国で育ったケントとでは、表現方法がまるで違う。年齢的にも、そんなことを堂々と言える年ではないのだ。
ただ、サルヴィオ以外に抱かれる気はない。だから傍にいる。全てを捨てて彼の傍にいることを決めたのは、イタリアに来たその日から決まっていたことだ。
サルヴィオはそれを許す気もないだろうし、オレ自身もその気は無い。
部屋に相変わらず焚いている甘ったるいお香の香りに催淫剤が入っていることを最近になって知った。
『ちょっと気付くの遅くない?』
クスクスとサルヴィオには笑われたが、あの香りの中で眠ることに慣れてしまった身体は、あの香りが心地良い。どうせ、腕の中でする、しない関係なく、出すものは出させるのがサルヴィオという男だ。自分の方が若い癖に、こっちの躰をその気にさせて、吐き出すものを吐き出させて、それを舐めとって自分は勃ってないのか聞くと『大丈夫』と楽しそうに言う。
セックスに夢中になる年齢のくせに……と思うが、自分が寝た後に、接待で誰かを抱きに行ってるのかもしれない。その為に勃起させた状態で抱きに行ったのだとしたら、期待しすぎだと相手がその気にならないか?と思ってしまう。
もし、そんな接待をしてるのだとしたら、自分だって、はっきりいって嫌だと思う。そんなものは部下がいくらでも出来ることだろうし、実際に片野が連れてきた部下の相手も秘書にさせたと聞いている。
彼女はそういった接待をする為の秘書だ。なので、泊まりの接待の時には必ずと言っていいほど同行をする。そして客の部屋で夜を過ごす。
オレに興味を示す絶対相手もいるようだが、サルヴィオは丁重にお断りをしている。もう、一部の間では「サルヴィオの寵愛の相手」としても有名になりつつあった。
『あのサルヴィオを骨抜きにした男』を知りたがる者も少なくはなかったが、サルヴィオ当人が15年来の想い人だと告げていた。嘘ではないが、15年遡るとサルヴィオは子供で、イタリアにいた時間の方が長いのに何故?と疑問に思う者も少なくない。
イタリアの地にいれば、サルヴィオもケントも外見は日本人だが、骨格もよく筋肉もがっしりついたサルヴィオと比較されると、ケントは酷く貧弱だ。東洋アジア圏独特の骨格は筋肉も付きにくく、多少ついても服に隠れると貧弱だ。サルヴィオくらい鍛えてる人もいるが、目立って『マッチョ』と呼ばれる人種だ。
ケントにも無駄な肉はないが、元々男性独特の持ち合わせた筋肉が浮き出て、シックスパックになっている程度であって、サルヴィオとベッドに入っても、すっぽり躰が収まってしまうほど華奢だ。毎日のサルヴィオからの行為で、肉をつけてる暇もない。
夜中に目が覚めて、サルヴィオが隣にいない時を寂しいと感じる自分に、少し絆されているのだと実感させられた。
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