30 / 57

クリミナルアクト ♾ サルヴィオ 12

――ケントには見せられない裏稼業がある。 その日も裏切り者を炙りだしたところだった。 「さて、どうして組織(ファミリー)の掟を破ったのか教えてもらおうか?」 構成員は土下座状態で僕は椅子に座ったまま正面で足を組み替えながらそいつを見下ろす。わざと冷たい視線で、そいつを見下ろす。 「……あのっ……つい……出来心だったんです……どうしても金が必要で……」 「それで、つい?出来心なんて困るんだよね、そういうの。知ってるだろ?僕らは慈善事業をしてる訳では無いんだよ?この件はボスも頭を抱えてるよ?僕のアンダーボスの立場まで脅かすくらいにはね。穏便に済ませたいんだけど、いいかな?」 と僕は微笑む。僕の立場なんて、こんなことくらいでは揺るがないが、わざとそう言い放つ。イライラがマックスに来ているのだ。 その意味を悟った構成員は 「来月には子供が産まれるんです!お願いです……」 「それは僕の知ったこっちゃないんだよ。親がいなくても子供はたくましく育つものだよ? 僕なんか異国から来て、ここまで努力してきたんだからね?それに、ボスが自ら出てないことで察してくれないかな? おい、例の部屋でよろしく……ちゃんと後片付けも忘れないでね?」 こんなことでケントとの時間取られたかと思うと、それだけで腹が立つ。イライラの一番の原因は、今日、抱けなかったことにある。 「ロレンソ、おまえの監督不行届でもあるからな。二度目はないぞ?」 「……はい……申し訳ありません……」 自分より年下に命令されても、納得いかないだろうが、これもこちらの役目でもあるので、二度とボスの信頼を失うような真似はできない。 ウチは表向きは優良企業だが、裏では麻薬カルテルとの繋がりのあるものの要はマフィアだ。武器の物流もしている。その売買を任せていたやつの失態だ。多少のピンハネには目を瞑っていたが、頻度も多く、段々と調子に乗った行動に出れば、僕としても見逃してやることは出来ない。これでも慈悲深く見守ってきた方だ。 けれど、ボスの耳にまで届くようなヘマは、もう、こちらでは対処しきれない。という形をとるしかないのだ。 地下で行われているというのに、銃声が数発聞こえてくる。どうやら『処分』の執行が行われたようだ。サイレンサーを使わないのは、僕にその音をきかせるためだ。首は血抜きをした後にボスへ献上する。証拠を見せるためだ。ボスが満足すれば、その首は処分される。 次はそいつの役割だった後継者を決めなければならない。それはそんなに難しいことではなかった。最下層の構成員を選べばいいだけだ。 取引に使う駒は、はっきり言えば『捨て駒』だ。貧困層出身者が最適だ。薬を使ったことがなく、それなりの報酬を与えているのにも関わらず、目の前の金に目がくらんで今回のようなことにもなりかねないが、真面目に仕事をこなせば、それなりの生活が出来るはずだ。 人間は欲の塊でできている。それを承知の上で僕らの世界は成り立っているのだ。 人間の三大欲の一つが性欲だ。それを我慢させられてるのだから、僕のイライラもわかって欲しいものだ。ただ、可愛い顔を見せてもらってから来てることだけが救いだ。 一つ願いが叶えば、さらに欲が増える。それはケントをイタリアに呼び寄せた時からずっと感じていることだ。 僕はケントが好きで好きで仕方がない。まっすぐに自分に目を向けてくれるその眸が嬉しくて仕方ない。自分でもおかしな感情だと思う。 6歳の頃から、ずっと想い続けた相手を手に入れることが、こんなに幸せな事だとは思いもしなかった。腕の中で乱れるケントも、僕の秘書として優秀に働いてくれるケントも堪らない。 元々ケントが優秀な人材であることは間違ってない。それを使いこなせなかった、あの能無しの会社には、もう用はない。 ケントの言った通りに、株はどんどん落ちている。僕はデスクのパソコンから株の動きを見てほくそ笑む。ケントの指示通りに買った株価が上昇しているからだ。 人の使い方を知らない会社は滅びの一途をたどることは間違いないようだ。ケントはその点についても忠実だ。 くだらないお遊びは終わりにしてベッドに戻ることにする。仕事といえば仕事だが、自分が手を下すわけでもないのに、いい迷惑だ。 「ロレンソ、次の人選は任せた」 そう言って部屋を後にした。

ともだちにシェアしよう!