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デ・ペンデント ・ ケント 2
値踏みされるように見つめられた。サルヴィオに連れてこられた別の屋敷で、寝たきりの初老の男性には見覚えがある気がした。
「……サルヴィオ、おまえにそっちの趣味があったとは知らなかった。」
「他は無理ですよ。彼だからいいんです」
なんてとんでもないことを突然……ギョッとした目でサルヴィオを見るとケロッとしてる。
「別に世継ぎが必要なわけじゃないんですし、僕はこの人と生涯を共にしたいと思ってますよ?あなただって、特定の人を作らなかった」
「だが、男を相手にしたことは無いな……」
――オレだって初めてだよ……まぁ、元々経験は少ないが……
「……おまえを売った売人だろ。」
なんでそんなことを知っている?
「あの時から僕は彼に恋をしていたからですよ。たとえ、何があっても、彼は僕を裏切れない……ボスが1番ご存知でしょう?」
「おまえは私を裏切れるのかな?」
「まさか。僕がそんなことをすることがないでしょう?育ててもらった恩を仇で返すと?」
なんか、二人の会話は聞いていてあまり気分の善いものでは無い。狐と狸の化かし合い……
そんな気さえしてくる。
そもそも、何故、自分がここに連れて来られたのかの意図もわからない。
ただ、育ててもらった、ということは裏稼業 のクライアントだということか……
そして気になった言葉……『ボス』
上の人間をさして言うこといることはわかるが、子供を買う組織のトップなど、碌な仕事はしていない、ということで、サルヴィオには、もう一つの顔があるということを暗示しているということか……?オレはとんでもないところにいるのでは?疑問は次々に浮かぶ。
けれど、サルヴィオの言う通りオレにはもう、逃げ道もなければ離れることも出来ない。
抱かれ慣れた躰が、飢えた時が怖い。イタリアにいれば、東洋人の自分は目立つから、すぐに捕まるだろうし、パスポートは持っていない。国籍が変わってしまったのだから、日本のパスポートはゴミ同然になってしまった。
日本領事館に駆け込んだところで、国籍がないものを強制送還は出来ない、ということだ。
誰になんと言われようと自分の罪から逃げるつもりは無い。サルヴィオが自分を求める限りは彼の意のままに動くつもりだ。
その時にふと思い出した。
この男……何度か港の引渡し場所であったことのある男だ。でも、会社の方には引き渡した東洋人は居ない。自分の罪はサルヴィオしか知らない……ほかの子供たちはどうなった……?
「……思い出したようだな。」
「あんたに渡したのはサルヴィオだけじゃないはずだ。ほとんどは養子に出されたよ1部は残ってて、本業の方で動いてる。才能が1番あったのがサルヴィオだっただけだ。」
「血反吐を吐くような努力はしましたよ?ケントを手に入れるためにね……」
「ほとんどの子は養子に出したよ。サルヴィオの元で働いてる子もいるけどね」
――養子に出した……?どういう意味だ?
隣を見上げるとサルヴィオは表情を崩すことなくその場で微笑んでいる。
売り渡した張本人が思うことではないとは思うが、何か状況がおかしい。
「……そのうち徐々にケントにも僕の仕事を全てフォローしてもらうようになるよ?」
オレの考えを読み取ったかのようにサルヴィオが告げる。その一言に背筋が凍る思いがする。
たぶん、自分の考えは外れていないのだろう……そうして闇に落ちていくのか……
いや、闇に落ちているのは元々の話だ。
ただのチンピラから、本物にレベルアップするだけの話しだ。サルヴィオの口調や、この『ボス』という存在からして、裏稼業をしていることは間違いない。
もう、ここは腹を括るしかないだろう。ここに連れてこられたのもそういう理由だろうと想像がつく。ただ、人身売買に関わるのは二度とごめんだ。それだけはサルヴィオにも伝えなければならないだろう。
『あの業界から足を洗う』その為にオレはここに残ると決めた。日本にいても、足を洗うことになれば証拠隠滅で消されるだろう、と踏んでだ。けれど、結果はその本拠地に身を置くことになるとは思いもしなかった。
自分の思うことが確実なことであるならば、サルヴィオは、この若さにしてマフィアのアンダーボスということだ。
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