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デ・ペンデント ・ ケント 3
昼の仕事が終わっても、帰る気配を見せないサルヴィオが、自宅ではなく、別の建物に移動したところで、今度は『ドン』と呼ばれる老人に挨拶に彼の寝室を訪れた。その老人も寝たきりになっていて、下半身を撃たれて歩けなくなったのがきっかけで、徐々に寝たきりになって言ったという。もう、高齢のようだったから仕方ないのだろうが、頭の方はかなりはっきりしていた。彼は北欧独特の顔立ちをしていた。
ただ、用事があったのは『ドン』に対してでは無いようだった。別の部屋に移動するとボコボコにされて顔を腫らして鼻血をながしている男が猿轡 に足首と後ろ手に縛られて転がっていた。その男を一瞥 して通り過ぎて、その奥の椅子に腰掛ける。
「ケントも座って?」
と勧められるがままに腰を下ろす。サルヴィオより少し後ろに位置した椅子だ。
「……で、どういうことなのかな?小さなことでいちいち呼び出されるほど、僕も暇ではないんだけど?呼び出されるだけの要件があったということでいいのかな?ロレンソ?」
口調は柔らかいが、言葉が氷のように冷たい。
「……誠に申し訳ございません。この者がボッケリーニにブツを流してまして、抗争になる前に絞めたんですが……」
「……反省はしてないの?」
ロレンソと呼ばれた男性が猿轡を外すと堰を切ったように喋りだした。
「頼まれたんです!!いくらでも出すって言われて……ボッケリーニの手の者とは知りませんでした。」
「ボッケリーニは銃火器専門でブツ禁止じゃなかったっけ?気の所為だったかな……?シュナウザー と直接話すなんて僕は嫌だからね? あの雪の城に呼ばれるのは二度とゴメンだよ。ボッケリーニの血筋はヤることしか考えてない。誰かに見つかりでもしたら食われるよ?欲求不満のヤツが行ってよね。
言っとくけど、僕は逃げたから。
もう、あの鬼ごっこはしたくないからね?」
立ち上がり、くの字に折曲がってる男の頭を踏んでグッと力を入れたのか、男が呻 く。
「ボッケリーニの手下かどうかなんて僕には関係ないんだよ?なんでクライアント以外に売ったのか、が問題なんだよ。前のバカを処分したばかりだというのに、着任早々にやらかしたこと自体が問題なんだよ?わかる?今回は見逃してやる。次に問題を起こしたら、前任者と同じ運命を辿る、ってことを覚えといて?」
氷のような眼差しで男を見下ろして、冷たく言い放つサルヴィオを見るのは初めてだった。けれど、ここまで来て怖気付くようなオレでもない。わかっていたことだ。
「ロレンソ、もう少しコイツを反省させて?それと後任者も。1人でやらせると碌なことをしないのがよくわかった。なるべく若いのと、相応の人材の2名。今日は別の問題を話し合う予定だったのに、本当に時間の無駄。」
声をかけられたロレンソという30前後と見られる男性が指示に従い、その男を別の部下が抱えて出ていく。しばらくすると別のそれほど遠くもない部屋なのだろうか、男性の悲鳴が聞こえた。たぶん、数人でリンチを食らっているのだろう、と容易に想像できた。
「……ところで……ボスが送り込んでた男がボッケリーニに殺られた件についてだけど、何かわかった?」
「まだ、日本公演中のアルノルドからの命令、ということのみで……ただ、その日本で、『世界の預言者』との接点があったようです。」
「……なるほどね……それは不可抗力だ。今になって話が出てくるわけだ。アルノルドは実兄を殺ったヤツを血眼になって探してたらしいからな。でも、なんで、表に出てこない『預言者』との接点が……?」
「調査中です」
――『世界の預言者』?
何者なんだろう……?庶民は誰も知らないであろう、その預言者は過去も未来も視ることが出来る存在らしい。
「ボスの送り込んだ者の代わりに密偵をする者を教育してきたのですが……入りなさい。」
入ってきたのはいかにも悪さをしていた、と言わんばかりの17歳くらいの男の子だった。
値踏みするようにサルヴィオはその男の子を見てニヤリと嗤った。
「……出来るの?」
「俺はアンダーボスに憧れてます。なので、絶対にやります!!前任者のような向こうのアンダーボスの側近まで上り詰めます!!」
強い眸でサルヴィオに訴える。
「くれぐれもあっちのアンダーボスを殺らないように頼むよ?えっと……」
「ジャコモです。」
「……なるほど。跡を継ぐもの……ね。期待してる。ボッケリーニの今のアンダーボスの名前はジョルジョだ。彼に気にいられるように頑張ってね。ボッケリーニの血筋はセックス好きだけど、経験は?」
「……女性とは……」
「……うん。女の子もいるからね。上手くすればファミリーに入り込めるかもね。孕ませるつもりでヤッておいで?」
「はい!!アンダーボスの為に忠誠を誓います。育ててもらった恩は必ず返します!!」
――すごい会話だ……これでも、話は軽い方なのだろ……オレが売った子達もこうやって身を呈して動いているのだろうか……?
ジャコモを退室させた後に、サルヴィオが
「あの子の出身は?」
「スペインの孤児です。4歳の頃から何人か見繕って育ててきてました。中でも彼はずばぬけての成績です。潜り込ませるにもちょうどいい年齢になりましたので、推薦しました。」
「……そうだね……組織に入り込むにはいい年齢だ……こっち側の密偵の炙り出しは?」
「そちらも調査中です。なかなか尻尾を出しません。今はまだ、泳がせておいていいと思います。今夜はあっちの取引の日だったね。よろしく頼むよ。あと、あっちのカルテルの方も追加出来るようなとこがあったら、追加しないと多分、この先追いつかない。クライアントを大事にしたいんでね?あと頼んでいたものは届いてる?……あぁ、ありがとう。」
ロレンソから箱を受け取り中身を確認する。
「キミは本当に頼りになる。これからもよろしく頼むよ。使える駒は全て使って良いから」
「かしこまりました」
とロレンソは頭を下げる。
「あのさ、その敬語そろそろやめようよ。僕ら同期なんだからさ……」
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