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デ・ペンデント ・ ケント 5
この夜からサルヴィオはオレの肌にキスマークをつけるようになった。
――というのもさっき、オレを犯したヤツが数個ほどのキスマークを躰に残していたのが気に食わなかったらしい。
「……ケントは誰のもの?」
などと聞いてくるあたりが、まだ、少年の面影を覗かせる。
「……おまえの……サルヴィオのものだよ?」
そう応えるとフワッと微笑む。
その表情にドキッとしてしまう自分も大概だ。
サルヴィオの指の動きを追ったり、躰に触れる唇が優しく官能を引き出すようにゆっくりと高められていく。最初こそ、空港からの片道の車の中で初めてを奪われた。酔いと媚薬のおかげで、未知の経験に完全に溺れた。ドライオーガズムの苦痛の中で、女のように喘ぎ男に抱かれる悦びを知ってしまった。
官能を引き出す、このお香の香りの中で、初めて抱かれた時を思い出す。オレが完全に陥落したのを承知の上で、今度は今のように優しく始まった愛撫から、段々と激しくなっていくセックス。若いサルヴィオは1回では収まらず、何度も揺すられて痴態を晒しまくった。
けれど、それがサルヴィオだから赦せた。15年前の罪であり、歪んだ愛情を植え付けたのは、他ならぬ自分自身だったのだから……
「ハッ……あァ……ンゥ……ンン……」
これだけ緩い愛撫だと、こちらにも感じながらも余裕が出来る。考え事をしながら愛撫されてるようだったから、サルヴィオの唇が触れた時に手を伸ばし、サルヴィオ自身を強めに握り上下に扱く。すごく熱く勃ちあがったそこに不意打ちを食らわせたのだ。さすがのサルヴィオも熱い息を吐く。
「……フッ……ケント……それは挑戦状かい?受けて立つよ?」
「考え事しながらなんて逆に酷くないか?さっきの上書きしてくれるんじゃなかったのかよ?オレは別にあれに対して傷ついてはいない。ただ、おまえ以外にヤられたことが気持ち悪いだけだ。傷つく権利なんてないんだよ……」
……そう。そんな権利はない。
「そんなに自分を卑下しないで。僕の油断が招いたことなんだから……本当にゴメンね……」
チュッと音を立てて唇にキスをされる。
普段、透かした表情 をして、他人を見下したような飄々とした態度で、クライアントとも接しているサルヴィオにあんな怒りを滲ませた表情をして、ベットのスプリングを利用した飛び蹴りする姿が横目に見えた時、あの身体の筋肉は伊達ではないと思った。しかも、躊躇なく頭に食らわせたのだ。相手は脳震盪を起こしてさらに頭から落下した。
オレとしてはこれ以上不快な思いをすることはなかったが、それ以上にサルヴィオの別の顔を見た気がした。この組織内で3番目の地位にいる男。しかも、まだ、若いと言うのに……
その理由を深く考えたことがなかった。この男がこの地位まで登り詰めるには、相当な場数を踏んできたはずだ。
躊躇 いなく胸元から素早く抜かれた拳銃……その拳銃の形なんて覚えてない。けれど、セーフティ解除をする形跡がなかったことを考えると、リボルバータイプなのかもしれない。オレは銃には詳しくはない。ただ、自動小銃があることくらいは知っている。
下手をすれば、このベッドの脇が血まみれになっていたかもしれない……と考えるとゾッとする。きっと、敷かれた絨毯ごと交換するくらいのことはするかもしれないが、記憶からは消えないだろう。止められで良かったと思う。
サルヴィオの手は、何人の血を流させてきたのだろう……日本で生活させてやれれば、こんなことさせずに済んだのに……
「……今度はケントが考え事?僕はこの生活に満足してる。ケントには感謝しているよ。
僕自身が選んだんだ。
トップに登り詰めることを、ね。ケントに会いたいから、どんな修行も勉強も頑張れたんだよ?でも、アンダーボスになったのは僕の意思。だから気にする事はないよ?」
そう言ってまた微笑む。
オレが足枷になることを知っていて、日本から呼び寄せて今は株の取引を任されている。仕事の時はタブレットを片手に株の変動を常に見ている。もうひとつのタブレットでは、取引先の動きも追っている。サルヴィオの会所に不利益になるような取引はない。
日本では大人しくしていた分、この会社では自分が培ってきた知識をフル稼働させている。
『評価』というものがないからだ。自分が意見を出せば、サルヴィオが動いてくれる。それだけでも気持ちが軽くなる。それは予想通りに上手く流れ、サルヴィオの側近として、やっと認められ始めたのが最近の話だ。
「……サルヴィオ……」
「ん?」
「……オレの全てを捧げる。何があってもオレはおまえから逃げることは無いし、裏切ることも無い……」
サルヴィオは目を見開いて、そのポーカーフェイスを解いた。
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