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デ・ペンデント ・ ケント 7
サルヴィオが何か思い詰めている……
それだけはわかっていたが、己の身に起こったことで、オレは精一杯で気遣う余裕もない。どちらが年上かわかったもんじゃない。
最低だと思うが、今はサルヴィオの熱を感じて溺れていたかった。『愛してるのか?』と聞かれれば、たぶん愛とかそういう次元ではなく、完全に依存している。もう、この男なしでは生きていけない……とも思う。
初めての『誘拐』だった。
けれど、オレの緊張などお構いないくらいにこの男が幼い頃、無邪気についてきた。悪いことだというのはわかっていた。けれど他に道もなかった……
オレはサルヴィオを好きだとは思う。躰に引きずられてるのかもしれない。でもそんなことはどうでもいい話だ。もう、オレ自身がこの肉欲に溺れてるのも自覚している。
『お兄さん、イケメンなのにセックスは淡白なんだね。もしかして経験値低い?』
そう言われても腹も立つこともなかった。どうせコールガールとして渡す身だ。売られた先で好きなだけセックスに溺れればいい……と。
彼女は高校生だと言っていた。受け渡したのはここのボスではなく別の依頼人だ。どこの国の人だったのかすら思い出せない。誘 き寄せて、仲介屋に渡すことも少なくはなかった。
コールガールを依頼されたのは3人。寝たのはうち2人だけだ。人生において、女性経験の方が少ないのはいいことなのか、そうでないのかはわからない。ただ、今はサルヴィオ以外の男に抱かれても感じてしまった……射精した自分への嫌悪感しかない。
人数だけで言えば男女共に2人ではあるが、サルヴィオとの回数だけでカウントすればそれは十分すぎるくらいに経験値を超えている。
『オンナ』として『情人』として抱かれることに慣れてしまった躰は、普通の男女間のセックスでは確かに満足出来ないだろう。最初のインパクトが強すぎた。サルヴィオはそれでも足りず、オレはこのベッドの上で何度も我を忘れるような快楽の波に飲まれていた。
今はもう、頭が真っ白になりそうなほどの快楽に溺れている。サルヴィオの愛撫が巧みに躰中を這う。声が喉の奥から突き上がっている。
「んぁ……サル……ヴィオ……いい……ァん」
「……ケント……僕のこと……好き?」
なんで、こんな子供のような質問をしてくるだろう?と思いながらも
「……好き……アァ……好き……あっ、ァん……オレ……には、おまえ……だけ……」
その答えに満足したのか、少し優しい表情をしながら深い口付けをして、ゆっくりとサルヴィオが中に挿入されてひとつになっていく。溶けそうな程の熱い塊が挿入ってくる。既に柔らかくなっているそこはなんの抵抗もなく受け入れていく。
「……僕も……ケントのこと、大好きだよ……ケントだけ……愛してる……」
快感に掠れた声にすら感じてまう。あの声の高かった少年はいつの間に声変わりをして、艶を含んだ大人の男の声になったのだろう……
感動や痛み以外で流す快感の涙があることを知った。眦から熱い雫を流しながら、サルヴィオを受け入れていく……涙で滲んだ視界に見えるのはサルヴィオの姿だけだ。この男だけ見てればいい……慈愛に満ちた眸で見下ろしているその表情は先程までの怒りはおさまっているようだった。部下に躊躇いもなく銃を向けた。
その事実は消えない。それだけ想われていることはわかるが、日本人の思考ではない。サルヴィオという男がこの国に染まっていることがわかる。だからこそ、日本人である自分を捨てたのだということも……
『オレ』という存在が人生を狂わせた。サルヴィオは違う、と言うが『真田岳人』という一人の人間が現在、日本で生活していたなら、こんな残虐性を持った男には育っていなかっただろうし、人生が交わることもなかっただろう。
大学生になって人生を謳歌しているか、社会人として真面目に働いていただろう。まさか、自分が初めて誘拐した子供と愛し合う日が来るとは思いもしなかった。
今は……この快楽に溺れてこの男とひとつに溶け合いたい。口唇を求めながらなかなかイかない男に揺さぶられていた。
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