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ロレンソ・ジョルダーノ 2
「ここでお話しても良いのかわかりませんが、妊娠してる可能性が高いので、産婦人科の方で詳しく検査をしていただいてよろしいですか?」
見た目男3人が病院に来て、妊娠してる、とは何が起きているのかわからない、といった表情で固まっているサルヴィオとケントが面白くて笑ってしまう。
「たぶん、おふたりは存在自体を知らないでしょうが、私はふたなりです。男性でも女性でもあるんですよ?」
前ボスの子を妊娠できたことに浮き足立ってしまっていた。そして医師から
「多胎妊娠ですね。お腹には3人います。リスクが大きいので、安静にしていてください。一組は双子で、一人は単体みたいですね」
一度に3人も……
嬉しい反面、仕事ができるような状態じゃない。サルヴィオはさすがに複雑そうな表情をしている。
「聞いてもいいのかわからないけど、父親にはこのことを知らせるのか?」
「言わなくてもバレるでしょうね……彼は私の世話がなければ何もできませんから……」
サルヴィオはそこで黙り込んでしまった。たぶん、心当たりがヒットしたのだろう。
「……わかった。その世話は誰かにも手伝わせよう。ロレンソは近くで指示を出していればいい。なるべく身体に負担をかけないように元気な子供を産め。ドンの部屋におまえのベッドを入れる手配する。仕事の方も、動く方は引き継ぎをするくらいの時間はあるだろう。口頭でいい、指示が出せるものはその都度出してやれ。書類関係は僕の方で何とかする。引き継ぎはおまえの1番の側近に伝えろ。」
話が早い。サルヴィオのそういうところは嫌いじゃない。あの一言でサルヴィオには何故わかったのだろう……?産んだ後はどうなる……?私たちのような教育を施すのか、違った道を歩ませるのか……?
ボスであるサルヴィオが判断することだ。
ただ、ドンが亡くなった時、何故ボスの座を私に譲ろうとしたのか、色んなことが分からないことだらけではある。未だに行われている教育を受けている子供たちは数多くいる。それぞれの適正に合わせた方面へ、教育を変化させていく。学力、体力、残虐性に長けた者が上へと向かえる。その結果が今の立場だ。
より、残虐性の高い私が裏の仕事を、よりよく立ち回りのうまいサルヴィオが表の仕事を任されることになった。古参の幹部からは、何故、若いふたりが選出されたのかわからないようだが、そういった幹部になるための教育を受けてきたのだから、現場を知らずに、と嫌味も言われたが、知ってる人は知っている。私たちがどれだけ敵対勢力の幹部を暗殺してきたか……
私はさすがに、ボスやアンダーボスクラスは狙えなかったけれど、サルヴィオはやってのけた。弱小組織ではあったが幹部クラスの暗殺はたぶん誰にも真似出来ない……そんな素質をもちあわせた男だ。あの夜、それをあの日本人も知ってしまった。それでも平然としているのは、元々が犯罪者だったからだろうか……?
サルヴィオが日本人だった頃に、日本から遠く離れたイタリアに売られてきた。教育を施すために色んな適性検査を受け、振るいにかけられて残ったうちの一人だ。他にもたぶん彼の元から送られてきたであろう子供はいた。けれど、全てが適正に適う訳では無い。
他に再度売られていった子供もいればモルモットのようにされた子供たちもいた。大人になる前に廃人同然になっていくほどの薬の投与や実験を繰り返され、自我を保っている人物はほぼいない。もしくは命を落としている。
それは日本人だけではなかったから、彼が関わった犯罪被害者なのかはわからないが、下っ端から中堅の幹部やサルヴィオのようにのし上がった人間がいる。私もそうだが、親に恵まれなかった人間ほど、その中にある心の醜さが底力になったりしているのだろう。
1度だけ、サルヴィオの両親について聞いたことがあった。彼は無表情で『記憶に残るような親じゃない。離婚するのに僕の存在がお互いに迷惑だったみたいだから消えて清々してるんじゃないかな?』と答えた。私も親には捨てられた身だ。正確には売られた。両性有具が奇形児だと思っていた親だったらしい。確かに奇形と言えば奇形なのかもしれないが……
僕は組織の中で育ち、一定の年齢から適正検査を受け、サルヴィオ達と学びを共にした。
そんな毒親にならないように、私は私の愛する子供たちと、ドンとの愛の結晶を大事にしていきたいと思う。ボスの赦しが得られるだろうか……?闇の世界で生きていくということは、それだけ己の身にも危険が多いということだ。
愛を知らない子供には育って欲しくない……
そう願わずにはいられなかった。
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