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クリミナル アクト ♾ サルヴィオ 22

「どうして、ロレンソのお腹の子かドンの子だってわかったの?」 ケントの素朴な疑問だった。が、僕は全てを知ってるから苦虫を潰したような表情をして、 「僕は子供の頃からあの二人を見てきた。ドンがまだ、幼いあいつに何をしていたかだって僕は知ってる。まだ、性の何も知らない頃から、あの男好みに仕上げていったんだ。2人とも隠してたつもりだろうが、2人を知ってる人間なら知らない奴はいないんじゃないかな?ただ、ふたなりだったことまでは知らなかった……まさか妊娠させるような関係だったことも……」 「どんなに仲が良かろうが、誰にだって知られたくないことの一つや二つはあるだろ。おまえだってオレに隠してることの一つや二つあるんじゃないのか?それがなんだかは知らないし、知ったところで何かができるのか、出来ないのかなんてわからない。例えばサルヴィオが子供を望んでいたとする。でも、女でもふたなりでもないオレには産むことは出来ない。それと同じだろ。オレだって日本では言えないことはたくさんあった。おまえのことを含めてな」 僕だってずっとケントを思い続けてきたのだから、人を好きになる気持ちはわかる。アンダーボスからボスになってしまったのは誤算だったが、次のアンダーボス候補に同じように生かさず殺さずにされるのも遠い未来ではない。しばらくの間はアンダーボスの座にいるつもりだったのに思うより早い出世に戸惑う。 ただ、まだそこに到達するような子供は見受けられない。18歳に到達するまでに振り分けられていくが下っ端クラスの人材しか集まっていない。言葉を覚えるまでに時間がかかりすぎてる子供も少なくない。男女問わず学ばせているが、スパイとしての才能を開花させて 躰を使って潜入させることも少なくはない。 そのまま寝返るやつももちろんいる。性癖は人それぞれだから、無理やりヤられてしまう少年などは初めての経験に溺れて男とのセックスばかりを求めてしまったり、薬を打たれてしまう場合もある。ただ、こちらの手の者だとバラすことだけは絶対にない。こちらの組織に定期連絡を入れるように指示はしているが、ダミーの組織の方に所属させてるからだ。 僕らみたいに直属ではない。僕らの世界は殺るか殺られるかの世界だ。スパイを送り込むなど当たり前、送り込まれていることもあるだろう。それを見誤らず信用に値するかを見極める必要がある。誰もが喉から手が出るほどの『世界の予言者』と繋がりのある息子(アルノルド)との接点の探りも入れるべきだろう。そんなものを近くに置かれては均衡が崩れてしまう。 彼らに見える過去や未来は絶対だ。だからこそ彼らはどこにも属さない。だからこそ彼の兄を暗殺した者の名を告げたのは何故か、そんなことをしても彼らには得は無いはずだ。アルノルドは復讐を終えて満足だろうが、それからはどうするのだろうか?他人の生死については何の感慨も持たないであろう彼らのその言葉に責任は伴わないことなのに意味はあるのだろうか? 日本にいる内定部隊にどのような経緯があったのか聞く必要があるだろう。下部組織のトップに連絡を入れてその詳細の報告書を上げるように命令をしてから、『世界の予言者』がどのような人物なのかも入手しておくべきであろう 翌日に上がってきた報告書を見るとアルノルド側ではなく、そのパートナーと接触をした人物の繋がりだとの事だった。まだ、若いそのパートナーはこの世の摂理をまだ理解してない飛び込んだばかりの予言者のようだった。 予言者とアルノルドのパートナーが大学時代の先輩後輩だったとの報告があった。今回の予言者のひとりは日本人(正確にはハーフ)ということになる。もう1人はヨーロッパの人間らしい。ヨーロッパ人の方がそれ以上の関わりを絶ったとのことで、抱え込みにはならないらしい。こちらとしては大事な駒をいくつか潰されたわけだからいい気分はしていない。 ただ、1度日本から排出された『予言者』に会ってみたいとは思う。預言者の入れ替わりの時期などはわからない。人の生と同じという説と数百年に1度という説もある。不老不死との説もあるが、大学の先輩、後輩と言うからにはつい最近着任したであろう『予言者』の存在からしても不老不死はないだろう。都市伝説の域を出ない話かと思いきやリアルに現れたというのだからびっくりだ。しかも日本公演のオーケストラに現れたというのだから、目的が別にあったのだろう。それを見抜いたアルノルドという男も食えない人物だと言えるだろう。 自分が無事なうちに1度は会ってみたいものだと思いながら、お目通り出来るかは組織次第かもしれない、と。少なくもボッケリーニの組織は何らかのアプローチに成功したという噂は聞いたことがある。 その願いが届く日が来るのかどうかもわからないが、目の前の人が傷つく姿は見たくない、と相反する気持ちに自分でも笑えてきてしまう。どれだけの人の命を奪ってきたか、どれだけの人を傷つけて来たのかを棚に上げて自分の手の中のものを護りたいなどと言えた口ではないのだろうが、他人を踏み台にしてきた自分の人生は決して誇れたものではない。この両腕も躰も血に染まりきっている。それでも……今、ようやく手に入れたこの人を護りたい、そのためにはもっと強くならなければならない、と誓いを胸に立てた。

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