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第9話

「なに、鹿野くん・・・ほんともう、やだ・・・」 「悟さんの意見は聞いてません、怖いなら前向いて目を瞑っていてください、そのうち終わるんで」 「・・・君ほんと・・・なんでこんな・・・」 涙が出てきてじわっと視界が滲んだ。後ろで舌打ちが聞こえたから、きっと鹿野目だろう。堂嶋は仕方なく、他に掴むものがないのでソファーの端っこをまたぎゅっと握った。すると急にヒヤッとしたものが後ろ孔に当たって、堂嶋は吃驚して体が勝手に跳ねた。 「か、の、くん」 「涙目で見ないでください、一応、俺も良心が痛むので」 「嘘だ・・・」 ぬるりと鹿野目の指が中に入ってくる。本気だ、堂嶋は歯を食い縛ってその奇妙な感覚に耐えながら思った。鹿野目は嘘は言わない、好きなのもきっと事実だし、このまま大した抵抗も出来ずに、自分はこの部下に手籠めにされてしまうのだろうと思うと、気が遠くなる。 「う、ぁ・・・っ」 「力、もうちょっと抜いてください。入るもんも入りません」 「は、ぁ・・・前向いてるだけで・・・良かった、んじゃ」 「言い返せる元気があるんなら、もうちょっと協力してください」 言っていることが無茶苦茶だと思いながら、堂嶋はぎゅっと目を閉じて、深く息を吐き出した。鹿野目の指がゆるゆると動いて中に入ってくる。 「ん・・・っあ・・・」 「やればできるじゃないですか、悟さん」 「う・・・ほん・・・っつあ、きみ、は・・・」 ぐちぐちと中で鹿野目の指が動いて、堂嶋は何か言い返そうとしたけれど、それに気をやっている余裕がなかった。短く息を吐く。 「はぁ・・・あっつ、あ・・・や」 びくっと体が跳ねて、何事かと自分で思う。恐る恐る首を回してみると、鹿野目が此方を見下ろしているのが視界の端っこに映る。 「か、かの、く・・・う、ぁっつ、あ、っはぁ」 「悟さん知ってますか、ここ、弄られるとすごい気持ちが良いんですよ」 「あ、あっつ、や」 「ほら、だんだん、良くなってきたでしょ」 「あっ・・・―――」 後ろからまた性器をきゅっと握られて、堂嶋は目を瞑った。なにかとてつもなくいけないことをしているような気分になる。自分だけでなく鹿野目も、そこに誘っているような気分になる。背中でふっと鹿野目が笑ったような気配が、またした。 「もういいかな」 「っつ・・・は、・・・はっ・・・」 ずるりと鹿野目の指が抜かれて、急に堂嶋は自由になる。次の瞬間腰を抱かれて、ぐっと持ち上げられた。もうどこにも力が入らないので、堂嶋にはどうすることも出来ない。 「挿れますよ、悟さん」 「・・・な・・・もう・・・や、め・・・」 「ここでやめろなんて、出来ると思ってるんですか、悟さん」 「う・・・う、ぐっ、あ」 背中で短く息を吐く気配がする。堂嶋はソファーの端っこをずっと握っていた手が、汗で滑ってどこにも掴まるところがないことに焦って、けれど腰は鹿野目に押さえられて上手く動かない。滑るソファーの上に頼りない手を這わせて、クッションと本体の間に隙間を見つけて突っ込む。 「・・・は、・・・はは、」 「な、・・・ぁ・・・っつ、わらっ、て」 今度ははっきり鹿野目の笑い声が聞こえた。腰が一層引きつけられて、鹿野目が狭いところを抉じ開けるみたいに押し入って来るのに、堂嶋は声がもう出なくなる。 「は、だって・・・悟さん、の、なかに、俺」 「・・・あ、うう・・・ぁっ」 「はは、人生って、捨てた、もんじゃない・・・んだ」 「な、に・・・っぁ」 また意味の分からないことを言っている。音だけを認識しながら、堂嶋はぼんやりしてくる意識で思った。自棄に強引にやり口を選んだと思えば、急に消極的なことを呟いて眉間に皺を寄せて悲痛そうにしたり、鹿野目のことは本当によく分からない、もう分からなくても良かった。 「悟さん、意識、ありますか。動き、ますよ」 「・・・や、め・・・くる、し・・・」 「ちゃんと、息しててください、ね」 「・・・あっ・・・」 びくんと堂嶋の体が波打つ。深いところまで入っていたそれが、ずずっと抜かれる気配がして、堂嶋は必死で息を吸った。本当に意識して息をしていないと死んでしまいそうだった。抜かれたそれが全部は外に出ないまま、また深く突かれる。 「う、あっ、あ・・・は、ん」 「さと、り、さん」 「あ・・・や・・・ん、そ、こ」 「は、ここ?」 いいところを鹿野目が探るみたいに動いて、堂嶋は動かないながら首を振った。今のはなんだ、自分の方がして欲しいみたいな言い方、思って勝手に耳が熱くなる。 「や、やだ・・・ぁっ、か、の、くん・・・!」 「はは、さと、りさん、また」 「あ、あっ、はぁ、んんっ・・・」 「勃って、るよ」 ぐっと体を鹿野目が寄せて、また一層深くを突かれる。耳元で低くそう囁かれて、堂嶋は何か言い返さなければと思ったけれど、熱で茹だった頭は何も思いつかない。後ろから鹿野目が堂嶋の勃ち上がった性器を握ったのが分かって、また体に要らない力がぐっと入る。 「ん、はぁっ・・・はな、し・・・」 「そん、な、嫌がらなくても。抜いて、あげようって、言ってるのに」 「や、あっ・・・あっ!」 ずるっとまたソファーの上を、汗で手が滑る。もうどこにも掴まっておけない。ゆるゆると鹿野目が自分の性器を抜いて、堂嶋は歯を食い縛った。 「あ、もう・・・や、め・・・っつ」 「イキそうです、か、さとり、さん」 「んんっつ、で、る・・・からぁっ・・・」 「どうぞ、ちゃんと、見てる、んで」 鹿野目が低い声で言う。嘘だと堂嶋は目を瞑って思った。鹿野目のところからは背中しか見えない、見えないはずだった。また深く突かれて体が勝手に跳ねる。堂嶋の性器を握った鹿野目が、それに合わせて手も器用に動かしてくる。甘い痺れが背中を這って、堂嶋はくっと息を飲んだ。 「あっ・・・―――」 もう一度、鹿野目の手の中に白濁を放った時、背中で鹿野目が苦しそうに何か言ったような気がした。

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